54話 妹とみんなで勉強会・2
<結衣視点>
ハプニング? はあったものの……
ほどなくして勉強会が開かれました。
私の隣には凛ちゃん。
兄さんの隣には天道さん。
そんな二組が、テーブルを挟んで向かい合うようにしながら、勉強をします。
むぅ。
兄さんの隣は天道さんですか。
本当は、兄さんの隣は私が……と思ったんですが。
そうしたら、たぶん、勉強に手がつかないので、心の中で泣きながら断念しました。
兄さんの隣が良かったです。
横を見れば、すぐそこに兄さんの顔があって……いつでも、安らぎを得られるような環境……最高ですね!
あとあと、時折、ちょっと疲れたフリをして兄さんに寄りかかったりして……
って、いけないいけない。
兄さんのことばかり考えていないで、勉強をしないといけません。
そのために、わざわざ凛ちゃんに来てもらったんですから。
「んー……なあ、明日香。この問題わかる?」
「我が力を欲するか、人間よ」
「ラスボスっぽく言うな。さっさと教えろ」
「なによー、付き合い悪いなー。えっと……どれどれ?」
あぁっ!?
兄さんと天道さんの距離が近くなって!
二人で一つの教科書を覗き込むようにしているから、顔が近く……!
傍から見ていると、すごく仲が良いみたいです。
うぅ、うううぅ……
「……ちょっと、結衣」
凛ちゃんが、二人には聞こえないように、そっと小声で話しかけてきました。
「どうしたの? 猫が威嚇するような顔をしているわよ」
「だって……兄さんと天道さんが」
「……もしかして、嫉妬?」
「です」
「はぁ……単に、勉強を見てもらっているだけじゃない。何も起きていないでしょう?」
「でもでも、あんなに距離が近いんですよ? 吐息が触れ合うほどに近いんですよ? もしかして、私は見せつけられているのかもしれません……」
「そんなわけないでしょう。二人のことは気にしないで、ちゃんと勉強をしなさい」
凛ちゃんの言うことは最もなんですが……
うぅ、やっぱり、気になってしまいます。
天道さんは、兄さんの幼馴染です。
二人は小さい頃からの付き合いです。
私以上に、付き合いが長いです。
だから、気になってしまいます。
もしかして、天道さんは兄さんに気があるんじゃないか? ……って。
今のところ、普通の友だちに見えるんですが……
時折、妙に仲が良いんですよね。
ぴたりと息が合う時もありますし……
「ゆーいー?」
「あいたっ」
凛ちゃんに、ぽかっと、丸めたノートで頭を叩かれました。
「ん? 二人とも、なにしてんだ?」
「いえ、なんでもありませんよ。先輩たちは気にせず」
「そうか?」
「ほら、宗一。次の問題いくわよ」
「明日香はスパルタだなあ……」
二人は勉強を再開します。
そして、私たちは……
「なにをやっているの?」
「うぅ……すいません」
凛ちゃんは、おもいきり呆れていました。
「こんなことをしていてはいけない、っていうことはわかるんですよ? 勉強をしないといけませんからね。でも……どうしても気になってしまうんです」
「結衣って、思っていた以上に嫉妬深いのね」
「すみません、どうしようもなくて……」
「天道先輩も一緒に、っていうのは間違いかもね。これなら、一人でやる方が、まだ効率がいいんじゃない?」
「私、兄さんと一定時間以上離れると、禁断症状が起きてしまうのですが……」
「大真面目にバカなことを言わないで。ホント、先輩が絡むとぽんこつになるんだから」
「また言われました!?」
私、そんなにぽんこつなのでしょうか?
そんなことはないですよね?
いくら兄さんが絡んでいるといっても、いつもと変わらないですよね?
「まったく、こんな問題が出てくるなんて、考えていなかったんだけど」
「すみません……」
「私が二人を引き離してあげる。だから、結衣は天道先輩に勉強を教わりなさい」
「なるほど。その手が……」
「しっかりやるのよ」
凛ちゃんが教科書と手に、兄さんの隣に移動します。
「先輩、先輩。ちょっといいですか? わからないところがあるんですが……」
「ん? どこどこ」
うまい具合に、兄さんと天道さんの距離が離れました。
再び、二人の距離が縮まらないうちに、私は天道さんに……
「天道さん。教えてもらいたいところがあるんですが、いいですか?」
「いいよいいよー。こっちおいで」
「はい。失礼します」
天道さんの隣に……ちょっと露骨かもしれませんが、兄さんと天道さんの間に入り……教科書を見せます。
「この問題なんですが……」
「んー……ああ、これか。厄介だよねー。あたしも、苦戦した思い出があるわー」
「そうなんですか?」
「これ考えた人、すごいひねくれた性格でしょ、って断言できるくらい、意地の悪い問題だからね。えっと、まずは……」
天道さんが丁寧に問題を解説してくれます。
先生みたいで、とてもわかりやすいです。
……一方で、兄さんと凛ちゃんが勉強をしています。
「……っていうわけ。わかった?」
「はい。先輩の説明、わかりやすいですね。勉強が苦手とは思えません」
「一年の問題だからな。これくらいわからないと、ちょっとやばいし……」
「でも、言い換えると基礎はしっかりとしている、ということですよね。先輩は、やればできる人では?」
「ありがと。そう言ってもらえると、自信になるよ」
「いえいえ、どうしたしまして」
……むぅ。
今度は、兄さんと凛ちゃんが良い雰囲気ですね。
仲の良い先輩後輩というか……
とても気さくな感じがしていて、親密な具合が伺えます。
もしかして、凛ちゃんも兄さんが……!
(ゆい)
口パクで、凛ちゃんが私にメッセージを送りました。
(私に、嫉妬して、どうするの)
(でもでも、どうしようも、ないんです)
(結衣は、あほの子?)
(私たち、親友、ですよね!?)
がーん、とショックを受けますが……
色々とがんばってくれている凛ちゃんにまで嫉妬している時点で、言い返す言葉がありません。
うぅ……まさか、こんなことになるなんて。
私って、けっこう、嫉妬深い性格だったんですね。
こんなこと、初めて知りました。
兄さんと恋人の『フリ』をすることで気がついた、自分の新しい一面。
自分のことを知ることができてうれしい一方で、厄介な現実に頭を悩ませてしまいます。
『恋心』というものは、とても厄介ですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
妹が、だんだんあほの子になっているような……?
でも、親しい人たちの前だと、こんな感じなのです。
妹は優等生ではなく、親しみやすい一人の女の子、という感じです。




