50話 妹の過去
<結衣視点>
「結衣は、先輩のことが苦手だったでしょう?」
「っ」
凛ちゃんの言葉は、矢のように私の胸に突き刺さりました。
「……どうして、そう思うんですか?」
ちょっとだけ声が震えてしまいました。
本当に、ちょっとだけ。
「中学生の頃からの付き合いなのだから、結衣のことなら、ある程度わかるわ」
「そう……ですか」
「昔の結衣は、今と違って、先輩の話なんてまったくしていなかったでしょう? それが今は、口を開けば先輩のことばかり……わからない方が難しいわ」
「あ、と……そう言われると、私、わかりやすいかもしれませんね」
「嫌っていたら、愚痴なり文句なりこぼすと思うのだけど、そういうのはないし……だから、苦手だったんじゃないか、って思ったわけ」
「凛ちゃん、探偵になれるかもしれませんね」
「ということは、正解?」
「半分、正解です」
小学生の頃……
兄さんと家族になった時は、普通の兄妹だったと思います。
それなりに仲が良くて、うまくやれていたと思います。
変化があったのは、中学生一年の時。
……お母さんが消えた時。
お母さんに置いていかれた私は、自分の居場所を見失い……
兄さんに、妹として、家族として見られているかわからなくなって……
それで、どう接していいかわからず、兄さんと距離を置きました。
それは、兄さんを好きになる、中学二年の時まで続きました。
中学一年の時は、兄さんのことに触れなかったので……
それで、凛ちゃんは『苦手にしている』と思ったんでしょう。
ある意味、正解です。
どんな言葉をかけていいかわからなくて……
どんな顔をすればいいかわからなくて……
兄さんと接することを避けていましたからね。
我ながら、なんて愚かなことをしていたんだと思います。
昔に戻れたら、すぐに間違いを修正したいです。
兄さんは、とても優しい人なんですよ……と、昔の私に教えてあげたいです。
「結衣?」
「あ、すいません。ちょっと、考え事をしていました」
「先輩のこと?」
「それも、半分正解です」
「あまり、ぼーっとしていたらダメよ」
私がなにを考えていたか?
凛ちゃんは、それを尋ねるようなことはしません。
本当は気になっていると思いますが……
でも、私のことを気遣ってくれていて、気軽に心に踏み込んでくることはしません。
だけど、なにかあれば、いつでも話は聞くよ、という姿勢は崩さないで……
なんだか、凛ちゃんに優しく見守られているような気分です。
私は、とてもいい友だちを得ることができました。
凛ちゃんと出会えたことに、神さまに感謝したいです。
「その辺りの詳しい話は……またいつか、ということで」
「ええ。期待しているわ」
……今はまだ、心の整理ができていないから。
「えっと……話を戻しますが、凛ちゃんは、いつから一緒に勉強できますか? テストまで時間がないので、できるだけ早い方がいいと思うんですが」
「そうね……ん。特に予定はないから、明日からで問題ないわよ」
「そうですか、よかったです」
「明日の放課後から始めましょうか。場所はどこがいい?」
「そうですね……いつも通り、兄さんの……」
はたと気がついて、言葉が止まります。
兄さんの部屋で勉強をしたら、凛ちゃんも兄さんの部屋に……?
凛ちゃんは、私の大事な友だちです。
兄さんも、凛ちゃんのことは、大事な後輩と思っているでしょう。
しかし、それと兄さんの部屋に私以外の女の子が入ることは、別問題です。
自分の部屋に異性を入れる……それは、とても重要なことではないでしょうか?
特定の親しい間柄……つまり、恋人にしか許されないような行為です。
もちろん、恋人以外でも部屋に入る機会はあると思いますが……
でもでも、やっぱり気になってしまいます!
理屈じゃありません、感情なんです!
兄さんの部屋に、私以外の女の子が入るなんてイヤです!
私だけが特別でいたいんです!
「ウチのリビングで勉強をしましょう。そこそこの広さがあるから、凛ちゃんが加わっても問題ありませんよ」
「今、先輩の部屋って言いかけなかった?」
「い、いえ。そんなことはありませんよ?」
「いつも先輩の部屋で勉強をしているんでしょう? それなのに、どうしてリビングに変更になるのかしら?」
電話の向こうで、凛ちゃんがニヤニヤと笑っているような気がします。
うぅ……凛ちゃん、いじめっ子ですよぉ。
「それは、その……」
「まあいいわ。リビングがいいのなら、リビングにしましょう」
「は、はい。そうしましょう。ぜひぜひ、そうしましょう」
「あ、でもやっぱり、先輩の部屋の方が……」
「兄さんの部屋は、今、とんでもないことになっていて……! だ、ダメですからね! とにかく、ダメなんです!」
「ふふっ。結衣って、先輩が絡むと、ホントぽんこつになるわね」
「ぽんこつ!?」
なんだか、ひどい言われようです。
私、ぽんこつですか……?
そ、そんなことありませんよね?
ないと信じたいです……
「それじゃあ、明日はよろしくね」
「はい。こちらこそ、お願いします」
「先輩、誘惑してもいい?」
「ダメです!」
最後まで『らしい』凛ちゃんでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっとだけ、妹の過去を公開です。
最初から主人公のことを好きではなかった、というもの。
では、どうして好きになったのか?
それは、この部で語りたいと思います。




