43話 妹は説教をされます
部屋は教室の半分ほどで、中央に椅子と机。
片側に結衣が座っていて……
対面に、先生が二人、座っていた。
一人は、俺のクラスの担任だ。初老の男の先生で、穏やかな人だ。
もう一人の女の先生は……結衣のクラスの担任かな?
何度か結衣を迎えに行った時に、見かけた覚えがある。
こちらは、三十過ぎというくらいか。
やや神経質そうな目をしていて、厳しそうな印象を受けた。
「七々原君、そこに」
「あ、はい」
担任に促されて、結衣の隣に座る。
なんだろう? この妙な四角関係は?
俺は心当たりはあるが、結衣は……?
なんとなく、イヤな予感がした。
「まず、僕から話をしますが……七々原君。ここに呼ばれた理由に心当たりは?」
「あー……小テストの件ですか?」
「うん、正解」
よりにもよって、結衣の前でこんなことを話さないといけないなんて。
後で、『兄さん、小テストってどういうことですか?』って、問い詰められるんだろうなあ……
「七々原君の成績は、まあ、決して褒められたものではなかったけれど、それでも全問不正解なんて初めてだからね。それで、ちょっと話をしたくて呼び出した、というわけなんだ」
「ですよね……でも、なんで指導室なんかに?」
説教なら、普通に職員室ですればいいと思うんだけど……
職員室が使えない理由でもあったのか?
「それは、私の方から説明しましょう」
結衣のクラスの担任が口を開いた。
ビシバシと、鋭い視線がぶつけられる。
「実は、七々原さん……では紛らわしいわね。えっと、結衣さんも小テストで全問不正解になったのよ」
「えっ、結衣が!?」
驚きのあまり、ついつい結衣を見てしまう。
結衣は申しわけなさそうに恥ずかしそうに、身を小さくしていた。
「それ、本当ですか? なにかの間違いじゃあ……体調が悪かったとか、うっかりミスをやらかしたとか……」
「いえ。結衣さん本人に確認したけれど、そういうことはないみたいよ。単純に、勉強不足だったことを認めたわ」
あの結衣が、そんな理由で全問不正解を……?
信じられない。
信じられないけど……こんなことで、先生がウソをつくわけないか。
本当のことなんだろう。
でも、どうして?
その疑問が拭えない。
「どうして、そんな……」
「それは、あなたたちが一番理解しているのではなくて?」
「え?」
「聞けば、二人は交際をしてるらしいわね……兄妹なのに」
びくっ、と結衣の肩が震えた。
「まったく。兄妹で交際なんて、なにを考えているのやら……」
「……俺と結衣は兄妹ですが、血は繋がっていません。だから、問題はないはずですが?」
「でも、世間はそうは見てくれません。兄妹というキーワードにのみ反応します。兄妹で交際するなんて……まだ他所には知られていないみたいですが、もしも知られたりしたら、我が校のイメージはダウンしてしまいます」
「うぅ……に、兄さん……」
先生の言葉に、結衣は子供のように不安そうにしていた。
えっと……よくわからないけど、この先生は俺たちにケンカを売ってるのか?
なら、買うぞ?
結衣の敵になるっていうなら、今から、あんたは俺の敵だ。
「少し、本題からズレていませんか? イメージうんぬんは、今は関係ないかと」
俺の担任が、そうフォローをしてくれた。
おかげで、俺もちょっとだけ落ち着いた。
「とにかく、あなたたちの交際に、私たち教師は良い思いを抱いていません」
「でも、恋愛は自由ですよね? で、法律に違反してるわけでもない」
「しかし、学業に支障が出ているのでは?」
あ、やばい。
「あなたたちが交際を初めてから成績が落ちた……だとしたら、私たちは交際を認めるわけにはいきません。学生の本分は、あくまでも学業です。恋愛ではありませんよ」
この先生の思考は偏っているものの……言っていることは、とことん正論だ。
さすがに反論することができず、黙ってしまう。
と、さっきと同じように、俺の担任がフォローに入ってくれる。
「まあまあ。成績の低下と恋愛……その二つに関連性があると決めつけるのは、まだ早計では?」
「しかし……!」
「まだ、小テストで一度だけひどい点を取っただけですよ? それだけでは、いささか説得力に欠けるというもの。当人たちも納得してくれないでしょう」
「それは、まあ……」
「なので、中間テストまで様子を見ることにしましょう。そこで、ハッキリとするでしょう」
「……そうですね」
うまい具合に、納得してくれたみたいだけど……つまり、それは……
「いいですか? 二人とも、今度の中間テストでそれなりの成績を出すこと。もしも、それができない場合は、恋愛が学業に支障をきたしているとして、二人は別れてもらいます!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回で、2部(?)の目的が明らかになりました。
イチャイチャにかまけず、勉強をすること。
でも、この二人は、なんだかんだでイチャイチャするので安心を。




