42話 妹はやらかしてしまいます
<結衣視点>
週末が過ぎて、月曜日が訪れました。
朝起きて、制服に着替えて、それからリビングに降ります。
すると、キッチンで朝食を作っている兄さんの背中が見えました。
「おはようございます、兄さん」
「おはよう、結衣」
エプロン姿の兄さん……アリですね!
私のために料理を作っているところを見ると、ニヤニヤしてしまいそうになります。というか、我慢できません。
私は慌てて反対側を向きました。
「……えへ、兄さん♪」
兄さんが、私のために料理を……うれしいです。幸せです。最高です。
新婚みたいな気分になれて、胸がぽかぽかします。
それに、兄さんのエプロン姿。とても格好いいです。
ただ格好いいだけじゃなくて、どことなく優しさがプラスされていて……
朝から、ついつい見惚れてしまいそうになってしまいました。
ああもう、兄さんはどうしてそんなに素敵なんですか?
妹の視線を独り占めして、なにを考えているんですか?
ホント、いけない兄さんですね♪
「ほい、おまたせ」
「手伝いますね」
兄さんと一緒に準備をして、朝食の時間になりました。
「「いただきます」」
ぱくりと、スクランブルエッグを一口。
とてもおいしいです。兄さんの愛情を感じます♪
「うまいか?」
「まあまあですね」
「うっ、そうか……よし。次はもっとうまく作るからな」
これ以上……!?
今でもおいしすぎて、兄さんの愛情をたくさん感じて、どうにかなってしまいそうなのに……
期待しながらも、ちょっと不安になりました。
私、兄さんが好きすぎて、ダメになってしまうかもしれません。
でも、それはそれでいいですね。
だって、兄さんが好きなんですから。えへ♪
「はぁ……」
「どうしたんですか? 朝からため息なんてついて」
「いや……もうすぐテストだなあ、って」
「まだ悩んでいたんですか?」
「どうしようもない、ってわかってはいるんだけど……まあ、考えずにはいられなくてさ」
「がんばってください。ひどい点をとるなんて恥ずかしいことはしないでくださいね?」
「……」
「否定してくださいよぉ!」
「オレ、ガンバル」
「どうして片言なんですか。」
「まあ、ちょくちょく勉強するしかないか」
なんだかんだで、やる気を出してくれる兄さんは素敵です♪
――――――――――
学校に登校して、授業を受けて……
そして、数学の時間。
もうすぐテストということで、抜き打ちの小テストが行われました。
問題は5問ほどで、時間は15分。
普段なら、大したことのない小テストですが……
「……」
隣の席の人とテストを交換して、先生が答えを発表して、採点をしました。
その結果……全問不正解。
「結衣、どうかしたの?」
隣の席の女の子……凛ちゃんが、不思議そうに尋ねてきました。
それもそのはず。
自分で言うのもなんですが、私は全問不正解なんて、そんな点数をとったことはありません。
小テストでも本番でも、高い位置で得点をキープしてきました。
それなのに、この点数は……
「調子でも悪い?」
「い、いえ……そんなことは……」
「なら、単に苦手な問題だったとか? でも、結衣に不得意な分野なんてあったかしら?」
「ない、と思いますが……」
「そうよね。なら、どうしてそんな点を?」
「……どうして、でしょうか?」
「まあ、難しい問題もあったから、気にしない方がいいわ。あの問題……A君とB君が溺れて、浮き輪は一つしかありません。どちらに浮き輪を渡しますか? っていう問題は、特に難しかったもの」
「究極の問題ですね! というか、それは勉学ではないと思いますっ」
「倫理の授業よ」
「今は、数学では……?」
呆然としている間に、小テストは一番後ろの席の人が回収して、先生のところへ。
あれを見られたら、まずいことになるのでは……?
そんな私の予感は、的中するのでした。
――――――――――
<宗一視点>
授業が終わり、昼休み。
俺は、教科書やノートはそのままに、頭を抱えていた。
「やらかしてしまった……」
抜き打ちで行われた小テストで、見事に、全問不正解を叩き出してしまった。
頭は良い方じゃないけれど、それでも、逆パーフェクトなんて初めてだ。
さすがに凹んでしまう。
「やっほー。おーおー、おもしろいくらいに凹んでるわね」
こちらの事情を知っているらしく、明日香がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「宗一も器用なことするわよねー。全部落とすなんて、狙わない限り、なかなかできないでしょ」
「うっさい。からかいに来たんなら、放っておけ」
「なによ、慰めてあげようと思ったのに」
「本音は?」
「おもいきり笑いに来た。あはははははははっ!!!」
この女……いつか泣かせてやる!
「まあ、冗談はここまでにして」
「おもきり本気だったろ」
「うん。ガチで本気だった」
やっぱり、いつか泣かす!
でも、幼馴染の容赦のなさに、先に俺が泣いてしまいそう!
「先生が、指導室に来い、だってさ」
「え? マジで?」
「マジよ。さすがに、こんなウソつかないわよ」
小テストのこと……だよな?
それ以外に、生徒指導室に呼ばれる理由がない。とはいえ、小テストで全滅したくらいで、生徒指導室に呼ばれるか?
ちょっと疑問だけど……まあ、呼ばれている以上、無視はできないか。
「時間はとらせないから、すぐに来てくれ、だってさ」
「了解」
がんばれー、という明日香の超適当な声援を受けて、俺は教室を後にした。
そのまま職員室の隣にある、生徒指導室に向かう。
「失礼します」
コンコンとノックをして、中に入る。
「兄さん?」
「あれ、結衣?」
なぜか、結衣がいた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
リアルでは冬なのに、作中は初夏ちょっと手前。
たまに混乱して、「寒いですね」なんて書いてしまいそうになります。
気をつけないと……




