38話 妹と旅行・7
翌朝。
お詫びとして、豪華な朝食をいただいて……
その後、荷物をまとめて女将さんたちに見送られて、俺と結衣は旅館を後にした。
それから、昨日は観ることができなかった観光地を巡り……
昼になって、ここでしか食べられないごはんを食べて……
最後に、土産屋であれこれと購入して……
電車に乗り、この地を後にした。
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ガタンゴトンと電車に揺られる。
隣に座る結衣は、満足そうに笑顔を浮かべていた。
「楽しかったか?」
「はい、とても。素晴らしい思い出になりました。一生、忘れることはないと思います」
「そこまで言う?」
「だって、兄さんと旅行なんて初めてなんですよ? というか、旅行自体初めてじゃないですか」
「……そういえば、そっか」
ウチは、家族関係がアレだからな……
そのせいで、旅行なんて無縁の生活を過ごしてきた。
「だから、とても良い思い出になりました。もう満足です」
「そんな、これきり、みたいな言い方をしなくても。機会があれば、また連れて行ってやるぞ?」
「えっ、いいんですか?」
「頻繁に、っていうわけにはいかないけどな」
今回の旅行でバイトの金は使い果たしたから、行くとしたら、また金を貯めないといけない。
何度も何度も、っていうのは無理だけど……ゴールデンウィークとか、そういう特別な日くらいは、いいかもしれない。
次は……そうだな、夏休みかな?
そう伝えると、結衣は子供のように、ぱあっと笑顔になった。
「夏休みに旅行なんて、とても素敵です! 兄さん、兄さん。私、海に行きたいですっ。あるいは、山でも構いませんっ。そういう、夏らしいところに旅行に行きたいです!」
「おう、任せておけ」
「あっ。ただ、また一人でなんとかしようとしないでくださいね? 具体的に言うと、毎日遅くまでアルバイトをしたり、とか」
「うぐっ」
「お金が必要なら、私もアルバイトをするなりして協力しますから、兄さん一人で解決しようとしないでください。私も手伝わせてください」
「……そうだな」
施しをするみたいに、一方的な関係はよくないか。
俺たちは、『兄妹』なんだからな。
「じゃあ、バイトは後々に考えるとして……今から、ちょっとずつ節約しておくか」
「はい、そうですね」
「で、機会を見て、父さんも誘ってみよう」
「……来てくれるでしょうか?」
「正直、難しいかもしれない。でもまあ、誘わないことにはなにも始まらないし……いつかは、な」
「そうですね……いつか、家族みんなで旅行に行けたらいいですね」
「ああ」
「……まあ、それはそれでいいんですが、でもでも、兄さんと二人きりの旅行も、これからも続けていきたいですね……」
「二人きり、って、なんのことだ?」
「なんでもありませんよ?」
確かに、なにか言ったはずなんだけど、とぼけられてしまった。
こういう時の結衣は、なにを言っても無駄だ。
追求は諦めて、窓の外を見る。
「ここの景色も綺麗だな」
「そうですね」
窓の外の絶景を見ていると、また旅行に来たいと思う。
結衣と一緒に、楽しい時間を……
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「すぅ……すぅ……」
電車に揺られること、1時間……
旅行の疲れた出たのか、結衣が寝てしまった。
俺の肩に寄りかかり、小さな寝息をこぼしている。
その顔は、とても満足そうだ。
肩にかかる重さが、どこか心地いい。
「んっ……兄さん……」
「うん?」
「……すぅ……くぅ……」
「寝言か……」
そっと、結衣の頭を撫でた。
昔は、こうしてやるとうれしそうにしたっけ。
「……んぅ……えへ……」
結衣も、夢の中で昔を思い出しているのかもしれない。
小さく笑い、かわいらしいところを見せる。
「ふあ……まだ時間あるし、俺も寝るか……」
俺も目を閉じた。
すぐに意識がまどろみの中に沈んでいき、結衣と同じように、寄りかかる。
「……くかー……」
「すぅ……すぅ……んっ……くぅ……」
……そのまま寝続けて、見事に電車を乗り過ごしてしまうのだった。
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そんなトラブルがありつつも、俺と結衣の初めての旅行は終わりを告げた。
最後まで呼んでいただき、ありがとうございます。
今回で、旅行回は最後になります。
けっこうたくさんの反響をいただいて……
機会があれば、一部まるごと旅行回、なんてやってみたいですね。
完全に未定ですが。




