37話 妹と旅行・6
<結衣視点>
お風呂から上がり……
兄さんと一緒にテレビを見て、おしゃべりをして……
ほどなくして遅い時間になり、寝ることになりました。
「それじゃあ、消すぞ?」
「はい」
パチッ、と電灯が消されました。
部屋が暗闇に包まれます。
「おやすみ」
「おやすみなさい、兄さん」
兄さんと布団を並べて横になりました。
そっと目を閉じて、意識を手放して……
ドキドキ。
ドキドキ、ドキドキ。
ドキドキ、ドキドキ。ドキドキ、ドキドキ。ドキドキ、ドキドキ。
無理っ、無理です!
兄さんと同じ部屋で、しかもすぐ横に並んでいる状態で、まともに寝れるわけがありません! 意識するに決まっているじゃないですかっ。
「……」
暗闇に目が慣れてきました。
ちらりと横を見ると……兄さんの顔が。
やっぱり、兄さんは格好いいです♪
でも、こうして寝ている時は、どことなくかわいらしい感じです。普段とのギャップが、またたまりません。最高です。ずっと見ていても飽きません。
「……兄さん?」
「……」
「……もう寝てしまいましたか?」
「すかー……すかー……」
寝息が聞こえてきました。
驚くほど寝付きがいいですね。
私なんて、ドキドキして眠れないというのに……むぅ、もうちょっと意識してほしいです。私のことをチラチラ見たりして、その度に赤くなって、そっと声をかけて、静かに話をして……
そんなことを期待していましたが、残念ながら、叶いそうにありません。
鈍感なだけではなくて、こういう時に寝付きがいいなんて……
ホント、兄さんを攻略するのは大変そうですね。
でも、諦めませんからね?
私は、絶対に絶対に絶対に、兄さんの心を掴んでみせます!
「……兄さん……」
体を起こして、そっと兄さんの顔を覗き込みました。
私に気づいていない様子で、兄さんは穏やかな寝息を立てています。
「ん……ぅ……」
起こさないように、静かに兄さんの頬に触れました。
兄さんの熱が手の平に伝わってきます。
それだけで、とても愛しい気持ちになります。
胸がぽかぽかして、温かいものでいっぱいになります。
私は、こんなにも兄さんのことが好きなんですね……
改めて、自分の想いを再確認しました。
「兄さん……ありがとうございます」
あふれんばかりの想いが、自然と言葉を紡ぎます。
「兄さんがいてくれたから、私は一人になりませんでした」
「兄さんがいつも一緒にいてくれて、私はとても満たされました」
「いつもいつも、優しくしてくれて、私のことを想ってくれて、ありがとうございます」
「私は素直じゃないので、本心を伝えることができなくて、すみません……」
「でも、これだけは覚えておいてくださいね?」
「私は……兄さんのことが、大好きなんですよ♪」
そっと、兄さんの顔に唇を寄せます。
そのまま唇と唇を合わせ……るなんて、恥ずかしすぎるので、頬にキスをしました。
「っーーーーー!!!?」
ぼんっ、と私は自分の顔が赤くなるのを自覚しました。
慌てて布団に戻ります。
やってしまいましたやってしまいましたやってしまいました!!!
兄さんが寝ているとはいえ、き、ききき……キスを!?
頬に、ちゅ……って!?
これはこれで、やっぱり恥ずかしいです!
「我ながら、な、なんて大胆なことを……一緒に寝るという雰囲気に飲まれていたとはいえ、こんなことをしてしまうなんて……旅行、恐ろしいですね!」
きゃー、とか、はうー、とか布団の中で悶ます。
我に返ると、恥ずかしさのあまり、どうにかなってしまいそうです。
でもでも、兄さんに、き、キスできて……幸せです、えへ♪
「……兄さん……」
兄さんの寝顔を見ます。
ドキドキは止まりませんが、温かい気持ちが広がり、さっきよりは落ち着いたような気がしました。
「おやすみなさい、兄さん……好きですよ」
もう一度、想いを言葉にして、私はそっと目を閉じました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
旅行で同じ部屋と言えば、一緒に寝る。
というわけで、一緒に寝るシーンでした。
妹の寝顔は……また今度で。




