36話 妹と旅行・5
「……」
「……」
「兄さん、あまり見ないでください」
「す、すまん。でも……つい」
「もう、えっちな兄さんですね」
「そういわれても、この状況じゃあ……」
「……妹の水着姿にどきどきするなんて、とてもいけない兄さんです」
ワンピースタイプの水着を着た結衣が、からかうような笑みを浮かべた。
一緒に風呂に入ろうと言われて、とんでもなく慌てたものの……
『水着着用』というもので、まあ、至って健全で、慌てたことが恥ずかしい。
俺、妹相手になにを想像しているんだよ……
……なんて思うけれど。
水着を着ているとはいえ、こうして一緒に風呂に入っていると……なんか、こう……意識してしまう。
ちゃんと水着を着ているし、裸が見えているわけでもないのに……
『一緒に風呂』というシチュエーションが、けっこう刺激的で、官能に酔ってしまいそうだ。
って、いかん!
こんなこと考えているのがバレたら、間違いなく結衣に嫌われる! ゴミを見るような視線を向けられてしまう!
煩悩退散っ!
「気持ちいいですね、兄さん」
「そ、そうだな」
「景色も素敵で……街は明かりが綺麗ですし……それに、この空」
結衣が空を見上げる。
つられて、俺も空を見上げた。
綺麗な星空のことを、よく『宝石箱みたいだ』、なんて表現する人がいるけれど……
そんな言葉じゃあ足りない。
夜空を埋め尽くすように星々が散りばめられていて、一つ一つの輝きは宝石以上に綺麗で、とても尊いものに見えて……
言葉で言い表せないくらいに深い感動を覚えた。
「風呂に入りながら、こんな景色を楽しめるなんて、すごい贅沢だな」
「そうですね、本当に贅沢ですね……おまけに、兄さんと混浴ですし……もう最高ですっ……でもでも、混浴で喜ぶなんて、私、えっちな女の子なんでしょうか……? うぅ、ちょっと悩ましいところです……兄さんは、私に欲情しているんでしょうか……? していないとダメですよ……」
「うん?」
「いえ、なんでもありませんよ? 兄さんと一緒にお風呂で素晴らしいとか、そんなことは思っていませんからね? 変な勘違いはしないでくださいね?」
結衣の顔が赤い。
のぼせたんだろうか?
「これが貸し切りなんて、すごいですね」
「だな」
旅館の露天風呂に比べると、さすがにサイズは劣るものの、二人なら問題のない広さだ。水着を着用しても問題ないし、酒を持ち込むのもアリらしい。
おまけに、この景色。
最高の一言に尽きる。
「これ、貸し切ると、それだけで万単位の金が飛んでくからな」
「そんなにするんですか? とてもじゃないですが、私たちには手が届きませんね」
「そういう意味では、予約を間違えてくれた旅館に感謝なのかな?」
「ここまでサービスしてくれるなんて、ちょっと申しわけないような気もしますけどね」
「まあ、好意は素直に受け取っておこう。サービスを断ったりしたら、向こうの面子も潰れるだろうし」
ぽかぽかと、体の芯から温まる。
効能は覚えてないけど、すごく落ち着く感じだ。
「……兄さん、そっちに行ってもいいですか?」
「えっ、それは……」
今は、向かい合うような形で湯船に入っているんだけど……
結衣が隣に?
これ以上、距離が近くなると……正直、もっとドキドキしてしまうんだけど。
「どうしたんですか? ……イヤですか?」
「そんなことはなくて、ドキドキするっていうか……」
「えっ……ど、ドキドキしてくれるんですか?」
「そりゃ、まあ」
妹はいえ、結衣は年頃の女の子で、すごくかわいいし……
状況が状況だから、ちょっとは意識してしまうかもしれない。
「じゃあ、隣、失礼しますね」
「お、おい。まだなにも言って……」
「聞こえません」
こちらの言うことを無視して、結衣が隣に移動した。
そのまま、肩をぴたりとくっつける。
「んっ」
「……」
「兄さんの肩、大きいですね」
「そ、そうか?」
「はい。男の人、っていう感じがします」
「どんな感じだろ……」
「……ドキドキしますか?」
「……さあな」
「むぅ、つれないです」
どうしろというんだ、俺に。
「あの、その……こ、こうしていると……」
「うん?」
「し、ししし……しん……こん……」
「しん?」
「し……失礼なことを考えていませんかっ!?」
「えぇっ!?」
いきなり怒られた!?
「いやいやいや、なにも考えてないから! 心はまっしろ! 無の境地だから!」
「そ、そうですか……って、それはそれで、なんていうか、悔しいですね……恥ずかしいのを我慢して、ここまでしているのに……もう、兄さんのばか……いっそのこと、お、襲ってくれても……あああ、やっぱりそれはナシです、恥ずかしいです……それに、最初はお布団の上が……」
「結衣?」
「は、はいっ!? なんですか!?」
「そろそろ上がらないか? ちょっと、のぼせてきたかも」
「あ、はい。そうですね」
「……」
「……」
「上がらないのか?」
「……一緒に出たら、着替え、見られてしまうじゃないですか。更衣室は一つなんですよ」
「す、すまんっ!」
「もうっ、兄さんは……でも、いつか一緒に……ですね♪」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
妹とお風呂です。もちろん、健全な内容です。
……健全かな?
まあ、ちょっとくらい大胆でもいいですよね!




