35話 妹と旅行・4
神社を参拝した後は、山を降りて、街に繰り出した。
ここでしか食べられないお菓子を食べて……
ご当地マスコットのかわいさに、結衣が子供のように目を輝かせて……
土産屋で、どう見てもアウトなパクリ商品を見つけて笑って……
楽しい時間はあっという間に過ぎて……夜が訪れる。
旅館に戻った俺たちは、さっそく夕食を食べることにした。
「「おおおおおぉーっ」」
今日、何回目の感嘆の声だろうか?
色鮮やかな料理が、テーブルの端から端まで、ずらりと並べられている。
料理の花畑、なんて言葉が似合いそうだ。
「これ、すごいですね……こんなごちそう、初めてです」
「あの……俺、普通のプランでお願いしたはずなんですけど……これが普通なんですか?」
料理を運んでくれた仲居さんに尋ねてみると、笑顔で答えてくれる。
「いえ。お客さまにはご迷惑をかけてしまったので、女将から、最大限のおもてなしをするように言われておりますので」
「いいんですか?」
「はい。どうか遠慮なさらず」
「えっと……わかりました。ありがたく、いただきます」
「では、ごゆっくり」
仲居さんが一礼して、部屋を後にした。
「じゃあ……いただきます」
「いただきます」
さっそく、小鉢に入った煮物を一口。
「おぉ……! うまいっ、マジでうまいぞ、これっ」
「これ、すごいです! 味がしっかりと染み込んでいるのに、形はまったく崩れていなくて……しつこくなくて、あっさりしているから、いくらでも食べられますっ」
「結衣、こっちの刺し身もすごいぞ! 身がぷりぷりだ!」
「このお肉、口に入れた途端にほろほろと溶けるように崩れて……はぅ、幸せです♪」
あまりにおいしくて……
俺たちは夢中になって、ごはんを食べるのだった。
――――――――――
「あー……食った食った。こんなに食べたの、久しぶりだなあ」
夕食を終えて、1時間くらい経っただろうか?
まだ腹が重い。
あまりにおいしくて、全部食べたからな……
まだすばらしい料理の余韻が残っているような気がして、最高に幸せな気分だ。
「はぅ……」
なぜか、結衣は落ち込み気味だ。
「どうしたんだ?」
「……あまりにおいしいから、食べすぎてしまいました。体重が心配です……」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこと、とはなんですかっ。女の子にとって、とても大事な問題なんですよ!」
「わ、悪い。軽く見てるつもりはなくて……ほら、結衣は、もうちょっと肉があってもいいんじゃないかなー、なんて思ったからさ」
「……そうなんですか?」
「ちょっと細いくらいだから、ちょうどいいんじゃないか?」
「もうちょっとお肉がある方が、兄さんは好みなんですか?」
「うーん……どっちでもいいかな? まあ、結衣の場合、どうなろうとかわいいから気にするな」
「か、かわっ……兄さんに、かわいいって……かわいい……兄さんが、私のことをかわいいって……はぅ……ダメですダメです、そんな不意打ち卑怯です。あう、ドキドキして……兄さんの天然は、本当にずるいですよ……もう」
なぜか、結衣があたふたと悶ている。
俺、そんなに驚くようなことを言ったかな?
「そろそろ風呂に入ろうか」
「あ、はい。そうですね」
この旅館の風呂は全部温泉だ。
細かい成分とか効能は忘れたけど、まあ、そんなことはどうでもいい。
久しぶりの温泉に心が弾む。
着替えなどを用意して、いざ、浴室へ……
「兄さん、ちょっと待ってください」
「うん?」
なぜか、結衣に引き止められた。
「どうしたんだ?」
「さっき、仲居さんから聞いたんですが……ここの露天風呂は、混浴になっているそうですよ?」
「え、マジで?」
……そういえば、旅館を探している時に、紹介ページに混浴の文字があったような?
料金と時間の都合に合うところを探していたから、細かいところまでは見ておらず、そこまでは把握していなかった。
「兄さん……もしかして、混浴を目当てにしていたんですか……?」
妹のジト目が矢のように突き刺さる。
俺は慌てて否定した。
「ち、違う違う! 混浴ってことは知らなかったんだ」
「本当ですか?」
「本当だっ。ウソだったら、なんでもする!」
「なんでも……そういうことなら、別にウソだとしても……いえ、やはり兄さんが混浴を目当てにしていたというのは受け入れがたいですし……迷いどころですね」
「まあ、そういうことなら露天風呂は諦めるか……楽しみにしてたんだけどな」
「えっと……露天風呂なら、他にもありますよ?」
「えっ、そうなのか? どこに?」
ざっとしか調べてないけど、他は普通の浴室しかなくて、露天風呂はなかったと思うんだけど……?
適当に見ただけだから、見落としていたのかな?
「ファミリー向けの露天風呂があるんですよ。あらかじめ予約しておくことで、個人で使うことができます。さすがに規模は小さいですけど、貸し切りですよ」
「ああ、そういえば」
言われて、そういうサービスもあったことを思い出した。
値段を見て、すぐに諦めたけど……
「残念ながら、予約はしてないな」
「安心してください。予約を間違えたお詫びとして、私たちに使わせてくれるって、さきほど連絡がありました」
「マジで?」
「はい。それで、なんですが……その、あの……」
なぜか、結衣の顔が赤くなる。
もじもじとしながら、次の言葉を紡いだ。
「……お風呂、一緒に入りませんか?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
まったりのんびり旅行回、パート4。
……まったりのはずなのに、最後に爆弾発言。
どうなるのか!?
次回もお付き合いいただけたらうれしいです。




