34話 妹と旅行・3
山に面した街は、温泉だけではなくて、他にいくつもの観光地がある。
そのうちの一つ……全長50メートルを超える、巨大な滝を見ることにした。
「おおおっ」
「うわあああー」
橋の上から滝を見る。
ドドドドドッ、と大きな音を立てて滝が流れていた。
清流が岩肌を駆け抜けて、激しい水飛沫が舞い上がる。
見ているだけで心が震えてしまいそうな、圧巻の一言に尽きる、とんでもない光景だ。
「すごいですね……写真とかテレビで、こういう光景は見たことありましたが……生で見ると、ぜんぜん迫力が違いますね」
「だな。スケールが大きいっていうか、心に訴えかけてくるようなものがあるっていうか……とにかく、すごいな!」
「兄さん。語彙が貧弱ですよ」
「うっさい。そういう結衣はどうなんだ?」
「とても素敵な光景です……この一言で十分だと思いませんか?」
「まあ、そうかもしれないが……なんかずるいな、それ」
「ふふっ、ずるいのは妹の特権ですよ」
結衣が携帯を取り出した。
「兄さん。写真を撮りましょう?」
「いいぞ。携帯、貸してくれ」
「もうっ……私一人で映ってどうするんですか。兄さんと一緒じゃないと、意味がないじゃないですか……ばか」
「うん?」
「兄さん、一緒に撮りましょう?」
「え? でも……」
「ほら、早く」
少々強引に、結衣に腕を抱かれる。
肩と肩がぴったりとくっついて……顔の距離が近い。
「と、撮りますよ?」
結衣が赤い顔をしながら、携帯のレンズを俺たちの方に向けた。
「もしかして、照れてる?」
「そ、そんなわけないでしょう? どうして、私が照れないといけないんですか? ただ単に、一緒に写真を撮るだけですよ? ただの記念撮影ですよ? 照れる要素なんて、1ミリもありませんからねっ」
「お、おう」
怒らせてしまった……
やっぱり、年頃の女の子の思考はよくわからん。
まあいいや。
今は、写真を撮ることに集中して……
「はい、兄さん。笑ってください」
「こうか?」
「ちょっとかわいらしさに欠けますね……」
「うるさい、ほっとけ」
「ふふっ、その顔、いただきです!」
カシャッ。
――――――――――
<結衣視点>
滝を見た後は、そのまま山沿いを歩いて、今度は神社にやってきました。
「「わあああっ」」
兄妹、揃って同じリアクションをします。
兄さんと同じリアクション……えへ♪
「すごいですね。とても大きくて、荘厳としていて……見ているだけで、心が落ち着くような感じになりますね」
「言葉もないって、こういうことを言うんだな……ホント、すごいな、この神社は」
兄さんと一緒になって、ついつい、ぼーっと神社を眺めてしまいます。
それくらいに、とても素晴らしい神社です。
……いつか、こういう神社で兄さんと♪
ドレスを着たいという思いもありますが、神前式も捨てがたいです。
厳かな雰囲気の中、兄さんと永遠の愛を誓って……そのまま、私たちは結ばれて……きゃあきゃあ!
「結衣? なんか、すごい顔してるが……どうしたんだ?」
「なにを言っているんですか? すごい顔って、なんのことですか?」
「あれ? 戻った……気のせいだったのかな」
「それよりも、せっかくだからお参りをしていきましょう」
「そうだな」
兄さんと一緒に参道を歩いて、途中にある案内を見ます。
「えっと、この神社は……健康祈願と恋愛成就。それと、学業もあるんだな」
恋愛!
恋愛成就っ!!!
これは、なんという巡り合わせでしょうか。まさか、そのような素敵なご利益があるなんて……ふふっ、当然、私は兄さんと……えへ♪
「兄さん、早く行きましょう? ほーらっ、早く早く早く!」
「な、なんで急にすごいやる気に!? わかった、わかったから押さないでくれっ」
待ちきれず、駆けるような勢いで参拝をします。
神さま、境内を駆けてしまい、すみません。
でも、私の恋の炎は、例え神さまといえど消すことはできないのです! 消化不可能なほどに燃え上がり、絶賛、炎上中なのです!
……自分でもびっくりするくらい、テンションが上がってしまいました。反省。
「んー、賽銭は……奮発して、五百円にしとくか」
「私は、五円で」
恋愛成就が目的なので、やはり、『縁』が欲しいところです。
私と兄さんは、それぞれ硬貨を賽銭箱に入れて、パンパンと手を叩いて目をつむります。
兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……兄さんが私のことを好きになりますように……
あとあと……
兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……兄さんと幸せな家庭を築けますように……
それと……
(兄さんと、ずっと一緒にいられますように)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
最後に、欲望垂れ流しの妹の姿が。
どうかな、と思いつつも、これはこれでアリか!
と書いてしまいました。




