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32話 妹と旅行・1

 少しの日々が過ぎて……ゴールデンウィーク初日。


「結衣、まだかー?」


 扉越しに声をかける。

 ドタバタと慌ただしい音が聞こえてきた。


「もう少し、待ってくださーいっ」

「あまりのんびりしてたら、電車逃すぞ」

「わかっていますけど、女の子の準備には時間がかかるものなんです!」


 そうもハッキリ言われると、反論できない。


 俺は結衣の部屋から離れて、一階に下りた。

 玄関に移動して、そこにまとめられている荷物を見る。


 荷物といっても、大した量じゃない。

 旅行鞄と、カメラなどの観光用道具を詰め込んだリュック。それくらいだ。


 まあ、一泊二日ならこんなものだろう。


「それにしても……昨日は、貴重な顔が見れたなあ」


 昨夜、結衣に旅行のことを伝えた時のことを思い返した。


 あらかじめ電車のチケットを手配して、旅館の予約をして……

 万全の準備を整えたところで、結衣に旅行の話を切り出した。

 実は旅行の準備をしているんだけど、一緒に行かないか? ……と。


 先日、余計な心配をさせてしまったお詫びというか、以前のお願いを聞いてあげたいというか……

 『家族らしい』ことをしようと思ったんだ。

 それで、旅行のことを伝えたんだけど……


 結衣は目を丸くして、小首を傾げて、それから目をパチパチとして……

 「はいっ!!!?」と、おもいきり叫んだっけ。


 それから、見ているこっちが不安になるような勢いでコクコクと頷いて、慌てて準備を始めた。


 ……サプライズが過ぎたかもしれない。

 準備の時間も必要だっただろうし、せめて、三日前くらいに言っておくべきだったかな。

 まあ、なんだかんだで喜んでくれているみたいだから、サプライズは成功か。


「兄さんっ、お待たせしました!」


 どたばたと結衣が階段を下りてきた。

 その顔は……笑顔だ。


「じゃあ、行こうか」

「はいっ!」




――――――――――




 電車を乗り継いで、都心部から離れること2時間……


 俺と結衣は、温泉街にやってきた。


「わあああーっ、わあああああーっ、わああああああああーーーっ!!!」


 いつも大人びている結衣だけど、今は子供のようにはしゃいでいた。

 目をキラキラと輝かせて、街並みを見まわしている。


 その気持ちは、ちょっとわかる。


 街のあちこちから、温泉の煙が立ち上っている。

 白い煙がもくもくと、あちこちで見ることができて……

 なんていうか、日常から非日常に迷い込んだような、そんな感覚。

 わくわくしてしまう。


「やっほおおおおおーーーっ!!!」


 上がるテンションに任せて、とりあえず叫んでみた。


「なにをしているんですか、兄さんは……」


 妹の冷たい視線が返ってきた。


「えっ、いや。テンション上がって、つい……」

「気持ちはわからなくはありませんが、やっほー、はないでしょう。ここは山ではないんですよ? というか、もっと落ち着いてください。はしゃぎすぎですよ」

「えええっ、結衣がそれを言うのか? 結衣も、めっちゃはしゃいでたじゃん」

「そ、そんなことはありません。私、すごく落ち着いていましたよ?」

「うわあああ、って叫んでたじゃん」

「ち、ちがいます!」

「目をキラキラさせて、駆け回ってたじゃん」

「むうううっ……兄さん、意地悪ですよ! ばかっ、嫌いです!」

「えええっ!?」


 ちょっとからかうだけのつもりだったのに、やりすぎた!?


「じょ、冗談だって! そうだよな、結衣は落ち着いていたよな。はしゃいでたのは俺だけだよな!」

「……ぷっ」


 我慢できないという感じで、結衣がくすくすと笑う。


「兄さん、そんなに必死になって、おかしいです」

「必死にもなるよ。結衣に嫌われたら、シャレにならん」

「えっ、それは……」

「妹に嫌われる兄って、思ってるよりも辛いんだからな」

「……兄として、ですか。そうですか」


 なぜだろう?

 結衣の視線が、より一層、厳しいものになったような気がする。


「もう。兄としてではなくて、男として心配をしてほしいものです。私のことが……とても……す、す……だから、嫌われたくないとか……」

「うん?」

「な、なんでもありませんっ!」


 結衣の顔が赤い。

 はしゃぎすぎたせいかな?


「ところで、兄さん。今日は、どこに泊まるんですか? 色々と見て回りたいところですが、先に荷物を置いていきませんか?」

「普通の旅館だけど……昨日、説明しなかったっけ?」

「そんなの、兄さんと一緒の旅行がうれしすぎて、まともに話を聞くことができず……いえ。突然のことに驚いて、ついつい、忘れてしまいました」

「まあ、それもそうか。いきなりで悪いな。もうちょっと、先に話しておくべきだった」

「いいですよ。兄さんなりのサプライズなんでしょう? でも……いいんでしょうか?」


 不意に、結衣が申しわけなさそうな顔をした。


「この前、帰りが遅くなっていた時……その時にアルバイトをしたお金で、この旅行のお金を貯めたんですよね? それは、とてもうれしいんですが……全部、兄さんに頼りにすることになってしまうなんて……」

「気にするな」


 結衣の頭をくしゃ、っと撫でた。

 髪が崩れて、結衣がちょっとだけ不満そうな顔になる。


「結衣のためにしたことだからな。他に使い道なんてないし、結衣が喜んでくれたら、俺はそれでいいんだよ」

「兄さん……ありがとうございます」


 結衣が頬を染めながら、にっこりと笑う。

 うん。やっぱり、結衣は笑っている方がいいな。




――――――――――




 とにかくも、まずは、予約を取っておいた旅館に移動した。

 しかし、そこで、とんでもないトラブルが俺たちを待っていた。


「え? 部屋は一つ?」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

前回で、シリアス回は終わりです。

今回から、再び、まったりイチャラブ回がスタートします。

こんな感じで、時折シリアスになりつつ、基本はイチャラブと進んでいく予定です。

これからもお付き合いいただけたらうれしいです。

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