30話 妹は一人になりました
<結衣視点>
家を飛び出した後のことは、よく覚えていません。
兄さんに必要とされていない。
そんな現実から逃げるように、走り続けて……
気がついたら、公園にいました。
ずっと走り続けて疲れていた私は、小さなベンチに座りました。
「兄さん……私、いらない子なんですね……」
言葉にすると、涙があふれてしまいます。
ぽたぽたと雫が垂れて、服を濡らします。
手の甲で目元を拭い……でも、次から次に涙があふれて……
「うぇ……えええええっ、ひっく……ぐす、うぇえええええ……」
私は子供のように泣きました。
……泣くことしかできませんでした。
――――――――――
小さい頃……まだ、兄さんと家族になる前のこと。
私は、いつも家で一人で過ごしていました。
女手一つで私を養うために、お母さんはいつも仕事で、家を空けていました。
私は良い子にして、お母さんの帰りを待ちました。
いつの日も、ずっと。
だから、私は家族が欲しいと思っていました。
兄弟が一緒なら寂しくないと思っていました。
そして……小学生の時に、兄さんと家族になりました。
すごくうれしかったです。
これで一人じゃない、寂しい時間を過ごさないでいい。
誰かに甘えることができる、頼りにすることができる。
温かい時間を手に入れることができました。
人並の幸せが、私のところに訪れました。
でも……それは、長く続きませんでした。
中学生の頃、お母さんはどこかに消えてしまいました。
細かい事情は聞かされていません。
ただ、もう家に帰ってこないということを聞かされました。
……私は、置いてけぼりにされました。一緒に連れて行ってもらえませんでした。
どうして私を置いていったんですか?
私はいらない子なんですか?
毎日、毎日、そんなことばかり考えていました。
でも、答えはわからなくて……見つからなくて……
次第に、私は怯えるようになりました。
私は、この家にいていいのでしょうか?
必要とされているのでしょうか?
……兄さんの妹でいて、いいんでしょうか?
怖くなりました。
もしも、兄さんから、いらない……なんて言われたら。
兄さんがそんなことを言うはずはありません。
でも、どうしても考えてしまうんです。
私はいらない子なのでは……って。
それから、私は兄さんに強く当たるようになりました。
とあることをきっかけに、兄さんを好きになり、照れ隠しという意味合いもありましたが……
本当は、兄さんにどう接していいのか、わからなかったのだと思います。
だから、あえて距離を取るような態度をとってしまいました。
恋人のフリをお願いしたのも、兄さんを繋ぎ止めたかったからなのかもしれません。
兄さんと私の間に、絆が欲しくて……繋がりが欲しくて……
だから、あんなことをお願いしたのかもしれません。
でも……意味のないことでした。
全部、無駄なことでした。
だって……
――――――――――
「私は……いらない子、ですからね……」
「違うっ!!!!!」
「……兄……さん……?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、結衣が抱えているものの一部を明らかにしてみました。
これでも、まだ一部だったりします。
残りは、また今度の機会に。
それまでお付き合いいただけたらうれしいです。




