296話 妹は、それでも一緒にいたい
父さんとの話が終わり……
俺と結衣は、一緒に部屋に引き上げた。
「……」
結衣と一緒に、俺の部屋へ。
でも、言葉はない。
ただ、重い空気だけが漂っている。
ややあって、結衣が口を開く。
「私……」
「うん?」
「……正直なところ、そこまで深く考えていませんでした。これは、私達の問題だから、私達が気にしなければそれでいい、って……そう思っていました」
「ああ、そうだな……俺も、似たようなものだよ」
「でも、そういうわけにはいかないんですね……他の人も傷つけてしまう可能性があるんですね……」
改めてその可能性を思い知らされて、結衣は落ち込んでいた。
……実際のところ、俺も凹んでいた。
考えが甘かったことを痛感している。
俺達だけが気にしなくていいなんて……
そんなことはない。
俺と結衣だけで世界は完結していないし、色々な人と繋がっている。
そういう人たちも、傷つけてしまう可能性がある。
世界はそんなに優しくない。
ちょっとしたことで傷ついて、傷つけて、傷つけられて……
そんなことばかりだ。
「兄さんは、どう思いますか? これから、どうするべきだと思いますか……?」
「それは……」
今すぐに答えは出せない。
「すみません……私がわからないからって、兄さんに頼って……兄さんも、悩んでいるはずなのに」
「いいさ、俺のことは気にしないで」
「そういうわけにもいきません。お父さんが言う、他の人を傷つけてしまうかもしれない、っていう話……今の私達にも当てはまると思いますから」
「というと?」
「そうやって兄さんが我慢したら、兄さんが傷ついてしまいます」
「そっか……それもそうだな」
「最初は、私達が気にしなければいいと思ってましたけど……それでも、私も、兄さんも、我慢しているだけで、傷ついていくんですよね……そのことを、お父さんは危惧しているんですよね……」
言葉が途絶える。
俺も、結衣も。
これからのことを考えて……
でも、答えが出なくて……
思考の迷路に迷い込んでしまう。
これから、どうすればいいんだろうな……?
結衣と付き合うことになった時は、これから先のことに、楽しみしか感じていなかったけれど……
こんなことになるなんて、思ってもいなかった。
考えが甘いというか、行き当たりばったりというか……
もうちょっと、色々と考えておけよ、過去の俺。
「私……」
しばらくして、結衣が口を開いた。
ベッドに座り、俺の枕を抱きしめながら……
静かに言う。
「やっぱり……兄さんと離れたくないです」
「結衣……」
「色々と考えないといけないことはわかっています。大変だっていうこともわかっています。いえ……わかっているつもりです」
「……」
「それでも……兄さんと一緒にいたいです。どうすればいいのか、まだわからないですけど……でも、兄さんと離れたくないんです。一緒にいたいんです……だって、好きなんです……兄さんのことが大好きなんです、ずっとずっと好きなんです……」
「……そうだな」
そっと、結衣の隣に座る。
それを待っていたように、結衣がこちらに寄りかかってきた。
心地いい重さをしっかりと受け止める。
結衣の肩に手を回して、受け止めて……
抱きしめるように、温もりに浸る。
「どうすればいいか、わからないけど……俺も、結衣と一緒にいたいよ。それは、絶対に変わらない」
「兄さん……」
「ずっと一緒だからな」
「……はい」
甘えるように、すがりつくように、結衣は俺に抱きついてきた。




