295話 妹の父の心境は……
素直に俺達の関係を打ち明けると、父さんは……難しい顔をした。
やっぱり、反対なのだろうか?
結衣が恐る恐る聞く。
「あの……私達のこと、お父さんは反対ですか……?」
「それは……」
「私、兄さんのことが本気で好きなんです。真剣に付き合っているつもりで……だから、その……できれば、お父さんにも認めて欲しいです」
「認めてあげたいとは思うけれど……」
父さんは、なんともいえない顔を作る。
話をする間もなく反対、というわけではなさそうだ。
でも、祝福してくれる雰囲気でもなくて……
「僕個人としては、反対はしないよ。父親らしいことをまともにしていなかったのに、こういう時に限って反対するのはおかしいことだと思うし……それに、二人の仲が良いのはわかっていたことだからね。まあ、それも、昔の記憶頼りになるけれど……そういう関係になってもおかしくないとは思っていたよ」
母さんがいた頃は、父さんも普通に家に帰ってきていた。
つまり、その頃の記憶を頼りに、俺と結衣の関係を推測したということか。
俺達、そんな昔から仲良かったのか?
父さんからは、普通の兄妹以上に見られていた、っていうことなのかな?
「ただ、ね」
賛成してくれるのかと思いきや、父さんは苦い顔をする。
「こんなことを言う資格がないのはわかっているんだけど……父親としては、賛成できないんだ」
「どうしてですか……?」
「道徳とか倫理観とか、そういう問題?」
「まあ、それもあるけどね。それ以上に、世間体という問題があるんだよ」
そう言って……
父さんは、慌てて手を横に振る。
「あ、勘違いしないでほしいんだけど、僕が困るからとか、そういう理由じゃないんだ。僕のことはどうでもいい。それよりも、宗一と結衣が困ることになるかもしれない」
「私達が……?」
「兄妹で付き合うことは、普通はありえないことだからね。何も知らない人が見ると、悪い風に思われるかもしれない」
「……なるほど」
なんとなく、父さんの言いたいことが理解できた。
ただ、結衣はよくわからないらしく、不思議そうにしている。
「他の人の目なんて気にしません。私達は、ちゃんと真面目に付き合っているんです」
「それはわかるよ。宗一も結衣も、自慢の子供だ。でもね……それは、他の人にはわからないんだよ」
父さんは疲れたような顔をした。
もしかして、同じような経験をしたことがあるのだろうか?
「二人は覚悟をしているというが、まだ、実際に人の目にさらされたことはないだろう?」
「それは……」
「人の悪意などは、思っている以上に辛いものだ。それに耐えられるかどうか……辛い思いをすることは間違いない。そのことがわかるから、僕としては賛成しかねるんだよ」
父さんの言いたいことは理解できた。
俺達はまだ子供で、父さんの庇護下にある。
世間の悪意にさらされたことはない。
結衣と付き合うことで、色々な目で見られることになる。
明日香やみんなのように、祝福してくれる人なんて少ないだろう。
大半の人が、きつい反応をすると思う。
それらのことで、俺達が傷ついてしまわないか、そのことを父さんは心配しているのだろう。
「二人は覚悟しているんだと思う。そういう可能性を考えないほど、向こう見ずじゃないはずだ。でも……想像しているものよりもひどいことになる可能性もある」
「……」
「二人だけの問題じゃないんだ。もしも、二人に子供ができた時……」
「こ、子供っ!?」
結衣の顔が赤くなる。
が、今は真面目な話の最中なので、ちょっと落ち着いて欲しい。
「二人の子供も、悪い目で見られるかもしれない。その時に傷つくのは、二人じゃなくて、子供だ」
「それは……」
「二人だけの問題じゃないんだ。他の人も傷つくかもしれない。そのことをよく考えた上で、答えを出してほしい」
「……」
「すまないね。こんな話をして……本当なら、賛成したいところなんだけど……」
「いや……父さんは、ちゃんとしたことを口にしているよ」
俺と結衣のこと。
そして、これからのこと。
もっと真剣に考えていかないといけない。




