293話 妹は満足しているけれど……
<結衣視点>
「ドレスはこれで決定ですね!」
あれから一時間ほど……
選んで選んで選んで……
さらに、迷いに迷い、なんとかドレスを選ぶことに成功しました。
魅力的なドレスばかりなので、本当に、選ぶのに苦労しました。
あ……
やっぱり、あっちの方が……今からでも変更が……
「結衣? どうしたんだ」
「あ……い、いえ。なんでもありませんよ」
入口の方で、兄さんが不思議そうにしていました。
ドレスは選び終えたので、あとはもう帰るだけ。
ぼーっとしてる私を、怪訝そうに見ています。
ちょっと名残惜しいですが……
今日はこの辺にしておきましょう。
兄さんのところに移動します。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「ああ、そうだな」
「素敵なドレスがたくさんありましたね」
「来週は、あれを着るんだよな?」
「そうですね。今から楽しみです」
「すっごい綺麗なんだろうなぁ……」
「も、もう、綺麗なんて……兄さん、そんなことを言われたら、照れてしまいます」
「でも、素直な感想だし」
「だから、そういうことは……あぅ」
たぶん、今の私は顔が真っ赤になっていると思います。
それくらいに照れていました。
ドレス姿を褒められて、喜ばない女の子はいるでしょうか?
いいえ、いません!
体がふわふわと浮いているような感じで……
今なら、空高く、雲を飛び越えられそうな気がしました。
それくらい、うれしくて……来週のイベントが楽しみでした。
「んっ……兄さん」
「お、おい」
手を繋ぐと、なぜか兄さんが慌てました。
はて、どうしたんでしょう?
今更、手を繋ぐことに照れるなんて……
それはそれで、かわいらしいんですけどね♪
「どうしたんですか?」
「どうした、じゃないだろう。まだ、ホテルの人がいるし……」
「照れているんですか?」
「じゃなくて、俺と結衣が兄妹ってことは向こうも知っているから、変な勘違いをされるかも」
「それは……」
学校では、割と堂々としていますが……
外になると、問題は別かもしれません。
私と兄さんは義理の兄妹。
血は繋がっていません。
なので、付き合うことは別に何も問題はありませんが……
やはり、世間体というものはあります。
学校では、皆は受け入れてくれていますが、外でも同じとなるかどうか、それは怪しいものです。
こういうところ……
今後のために、きちんと考えていかないといけませんね。
「じゃあ、ホテル内はやめておきますね」
「そうしてくれると助かるよ」
「いえいえ」
「……悪いな」
「え? どうして謝るんですか?」
「本当なら、堂々としたいところなんだけど……もしかしたら、とか、そういうことを考えて、なかなか一歩を踏み込むことができなくて……」
「……兄さんは優しいですね」
兄さんの気持ちを受け取り、胸が温かくなります。
そして、改めて気づくんです。
私は、兄さんが好きなんだ……って。
「そんなこと、気にしていませんよ。私は、兄さんと一緒にいることができれば、それでいいんですから」
「そっか……ありがとな」
「いえいえ」
ちょうどいいタイミングでホテルの外に出たので、手を差し出しました。
兄さんは優しく笑い、私の手をとってくれます。
この温もりがあれば、他に何も……
「あ……」
不意に、兄さんが顔をこわばらせました。
どうしたんでしょうか?
兄さんの視線を追って……私は、すぐにその意味を理解します。
「……お父さん……」




