291話 妹は妄想を働かせる
<結衣視点>
「はふぅ」
家に帰り、兄さんのごはんを食べて、お風呂に入り……
部屋に戻った私は、ベッドの上に転がりました。
思い返すのは、凛ちゃんの話。
ホテルのブライダルフェアに使用される写真のモデルに、私と兄さんが正式に採用されたということ。
「……ふふ」
思わずニヤニヤしてします。
だってだって、仕方ないじゃないですか。
兄さんと一緒の写真ですよ?
しかも、女の子の憧れのドレスを着て!
テンションが上がらないわけがないです。
「楽しみです♪」
来週末が本番ですね。
あ、でも、その前に説明があるんでしたっけ?
あと、当日に着るドレスを選ぶとか……
「ドレス……」
にへら、となってしまいます。
人様に見せられない顔をしてしまいますが……
だってだって仕方ないじゃないですか。
以下略。
「それにしても、私と兄さんの写真……」
ちょっとドキドキしてきました。
もちろん、これが本番じゃないということはわかっていますよ?
ただ、モデルを務めるだけ。
それだけのこと。
でも、やっぱりドレスを着るとなると、落ち着かなくなってしまいます。
女の子の憧れですからね。
大好きな人と大好きな姿で写真を撮ることができるなんて、夢みたいです。
「このまま、将来、本当に……きゃー、きゃーっ!?」
妄想を働かせてしまい……
ついつい、一人でじたばたと悶てしまいます。
反省。
少し落ち着きましょう。
「……お父さんのこともありますからね」
まだ、お父さんのことはどうするか、結論は出ていません。
どうしていいか、わかりません。
だから、喜ぶのは早いです。
「兄さんは……どう思っているんでしょうか?」
どれだけ、私のことを考えてくれているのだろう?
どれだけ、真剣に想ってくれているのだろう?
考えても仕方のないことですが……
それでも、考えてしまいます。
人を好きになるって、厄介ですね。
こんなにも複雑で、切なくて、苦しい想いをするなんて。
でも……
それ以上の幸せがあって、ドキドキがあって……
やっぱり、私は、兄さんに恋をしてよかった、と思うんです。
何度でも、そう思うんです。
「なにもかも、全部、うまくいけばいいのに……目が覚めたら、全部の問題が解決していればいいのに……」
そんなことはありえません。
宝くじに当たって欲しい、なんていうくらいの都合のいい夢です。
でも、そんな夢にもすがりつきたい気分でした。
「はぁ……最近の私、心がごちゃごちゃになっていますね」
考えることが多すぎて、整理できていない感じです。
「よしっ」
せっかくの機会だから、今は、写真のことだけを考えましょう。
その他のことは一時保留。
そうやって楽しまないと、わざわざ相手を務めてくれる兄さんにも悪いですからね。
気持ちを切り替えて、私は眠りにつきました。




