286話 妹と映画・2
予告が終わり、映画本編が始まる。
舞台はニューヨーク。
とあることから、超人的な力を得てしまった主人公。
彼は叔父の死をきっかけに、自分の力を世のために役立てる決意をした。
最近では、わりとありがちな物語だ。
テンプレとも言う。
しかし、悪い意味じゃない。
テンプレはありがちと言われがちだけど……
裏を返せば、それだけわかりやすく、たくさんの人に支持されているのだと思う。
「……」
ちらりと隣を見ると、結衣はわくわくとした表情でスクリーンに見入っていた。
気持ちはわかる。
一つ一つのシーンが丁寧に作られていて、感情移入しやすいんだよな。
男はヒーローに。
女の子はヒロインに。
それぞれ感情移入をして、物語を楽しむ。
やがて、物語は佳境へ。
主人公が自分の力に葛藤するシーンだ。
力を持っているが故に、ヒロインを巻き込めないと遠ざけてしまう。
しかし、心の奥底ではヒロインに愛をぶつけたい。
どちらを選ぶべきなのか?
主人公の迷い、悩みがよく伝わってくるシーンだった。
「……選択、か」
小さくつぶやいた。
俺達も、近い将来、選択を迫られるだろう。
ヒーローのような大きいものではないけれど……
俺達当事者にとっては、非常に難しい問題だ。
結衣を選ぶのか。
あるいは、正しい家族のあり方を選ぶべきなのか。
そんな選択が待ち受けているだろう。
その時、俺はどうするべきなのか?
結衣は、どうするつもりなのか?
今はまだ、何もわからない……
――――――――――
映画が終盤に差し掛かり、主人公はライバルとの決戦に赴いた。
誘拐されたヒロインを助け出す、最高に燃えるシーンだ。
「っ!」
主人公とライバルの戦いが始まると、繋いだ手に力が込められた。
ちらりと見ると、結衣はスクリーンをハラハラとした様子で見つめながら、ぎゅっと手を握っている。
すっかり、登場人物にシンクロしてしまったみたいだ。
そんな結衣は、見ていてとてもかわいい。
人目のある場所じゃなくて、映画の上映中でなければ、抱きしめていたかもしれない。
いや、ウソ。
いきなり抱きしめるなんて高難易度な技、俺にはまだ無理だ。
拒否されたら、とんでもないダメージを受けそうだしな……
「?」
ふと、結衣がこちらを見た。
暗闇の中だけど、目が合うのがわかる。
不思議そうな顔をしていた。
それから、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をする。
手を強く握りすぎた、と勘違いしたらしい。
結衣が、そっと手を離そうとして……
「このままで」
結衣を追いかけるように、細い手をしっかりと掴まえた。
「……兄さん?」
「ほら……目の前に集中して」
「は、はい……」
なんてことを言う俺だけど……
妙に結衣のことを意識してしまう。
手なんて、もう何度も繋いだはずなのに……
それ以上のこと……キスだってしたのに。
それなのに、心臓がドクドクとうるさくなる。
繋いだ手が熱くなる。
「……」
結衣も同じような感じらしい。
チラチラと俺の顔と、繋いだ手を見ている。
そして……
「……兄さん」
「うん?」
「ちょっと、こっちを向いてください」
「こうか?」
「……ちゅ」
ふわりと、唇に柔らかい感触が。
それと同時に、甘い女の子の香り。
それは一瞬で……
気がついたら、結衣が恥ずかしそうにしていた。
「……ごめんなさい、つい」
「つい、って……」
「き、気にしないでください」
「そんなこと言われてもな……」
気になる。
気にしないわけがないだろう。
「さ、さあ、いい場面ですよ。映画に集中しましょう」
その後……映画に集中できなかったのはいうまでもない。




