284話 妹の考え
<宗一視点>
学校を後にして、駅前に向かう。
「……暑いな」
「……暑いですね」
今日の天気は快晴。
青い空を見上げると、太陽がうっとうしいくらいに輝いていた。
直射日光がものすごい。
アスファルトに反射して、もわぁ、っとしてる。
気分は、ぬるま湯につかっているような感じだ。
そんな状況だけど……
「えへ♪」
俺達は手を繋いでいた。
俺の手なんて、汗ばんでいるだろうに……
そんなことは気にしないとばかりに、結衣は笑顔を浮かべていた。
「いいのか?」
「何がですか?」
「俺の手、汗ばんでるだろ」
「ちょっと」
「手、離してもいいんだぞ」
「そんなことをするなんてもったいない」
どこかのRPG風なことを言う結衣。
「兄さんとは、ずっとこうしていたいくらいなんですからね。その時間をわざわざ減らすようなこと、できませんよ」
「ずっと、って……」
「本当は、腕を組みたいです」
「それはとんでもなく暑くなりそうだから、さすがに勘弁してほしい……」
「わかってますよ。だから、手だけでいいです」
「助かるよ」
「……いつ、こういうことができなくなるか、わかりませんからね」
……結衣の言葉に隠れている感情は。
やはり、父さんのことだろうか?
俺達の関係は危ういものだ。
父さんが知れば、反対するかもしれない。
そうなった時、まだ子供である俺達は、逆らうことはできない。
もちろん、言われるがままになるつもりはないが……
最悪の事態を想定しておくことは必要だ。
そんな事態を考えて……
今のうちに、悔いがないように、できることは全部しておこう、と考えているのだろうか?
俺が、そういう気持ちだから……
結衣も、そんな気持ちになっているのではないか?
そんなことを思った。
ただ、今はデートの最中だ。
そのことを確認するのは、野暮っていうものだ。
一緒に暮らしているのだから、話はいつでもできる。
今は、結衣と一緒に過ごす時間を楽しいものにしよう。
「しかし、マジで暑いな……」
「兄さんの顔、汗まみれですよ」
「結衣はほとんど汗かいてないよな……涼しそうだ」
「女の子なので、そういう体質なんです。汗をあまりかかないだけで、暑いものは暑いですよ。げんなりしちゃいます」
「さっさと映画館に向かうか」
「ですね」
ちょっとだけ速度を早めた。
二人きりの時間も大切だけど……
さすがに、この猛暑には負けてしまう。
歩くこと10分。
映画館に辿り着いた。
できたばかりとあって、内装はとても綺麗だ。
そして、エアコンが効いていて涼しい。
「あー……癒やされる」
「ホントですね……」
「このまましばらく、ここで休憩したいな」
「そんなことをしていたら、上映時間を逃してしまうかもしれません。まずは、チケットを買いましょう」
「それもそうか。っていうか、何を観るんだ?」
「兄さんは何がいいですか?」
「18禁ホラー映画」
「……私を泣かせたいんですか?」
「男なら、ホラー映画を彼女と一緒に観て、きゃーと抱きつかれるのが夢なんだ」
「……兄さんがそうしたいのなら、私としては、やぶさかではありませんが」
「冗談だ。本気にしないでくれ」
一度、そういう経験をしてみたいとは思うものの……
結衣が楽しめなければ意味がないからな。
一緒に楽しんでこそのデートだ。
「やっぱり、デートらしく恋愛ものにしておくか?」
「んー……私、あまり恋愛もの好きじゃないんですよね」
「そうなのか?」
「ちょっと、おしつけがましいというか……CMを見ても、感動感動ばかりじゃないですか? 他に売り文句はないのかなあ、って」
「ああね」
「もちろん、おもしろいものはおもしろいと思いますけどね。でも、今やっているものの中で興味を惹かれるものはありませんね」
「なら……アクションでも観るか?」
「アメコミ原作のヤツがいいです♪」
「男みたいなチョイスをするな」
「女の子だって、わりと好きなんですよ? ストーリーはよく練られていますし、ちょっとほろりとする場面もありますし」
決まりだ。
券売機でアメコミ原作の映画のチケットを買う。
それと、明日香が言っていたクーポンでポップコーンとジュースを半額で買う。
そうこうしているうちに、館内に入場できる時間になった。
「楽しみですね、兄さん♪」
「ああ、そうだな。楽しみだ」
笑顔の結衣と一緒に、手を繋いだまま、館内に移動した。




