275話 妹は幸せです
<結衣視点>
家に帰り、名残惜しいものの兄さんと手を離して、部屋に戻りました。
浴衣を脱いで、部屋着に着替えたところで携帯が鳴ります。
ディスプレイに表示された名前は、凛ちゃんでした。
「はい?」
「どうだった?」
もしもし、もなしにいきなり『どうだった?』と聞かれても……
なんか、電話の向こうでニヤニヤしている凛ちゃんが思い浮かびました。
「なんのことですか?」
「もちろん、先輩との進展具合に決まっているじゃない。あそこまでしておいて、まさか何もなかった、なんてことはないわよね?」
「それは……」
兄さんとキスした瞬間が頭に思い浮かびます。
口先に広がる幸せな感触。
唇と唇が触れ合った瞬間、兄さんの想いが流れ込んでくるみたいで……
胸がこれ以上ないくらいにドキドキして、体が熱くなって、初めての感覚を味わいました。
そして……
今まで以上に、兄さんのことを好きになりました。
今までが大好きだとしたら……
大大大好きになりました♪
「えっと、ですね……そのことは、なんていうか……ええと……」
「はあ」
「凛ちゃん?」
「今の反応で、なんとなく理解したわ。おめでとう、って言うべきかしら?」
「他の人から言われると、ちょっと照れくさいですね……」
「先輩とキスできておめでとう」
「ハッキリと言わないでくれますか!? 恥ずかしい、って言ったじゃないですか」
「だからこそ、言ったのよ。結衣の恥ずかしがるところは、最高におもしろいもの」
「意地が悪いですね……」
「親友ならではの距離感と言ってほしいわ」
「そういう言い方、ずるいです」
「で、どうだった? 先輩とキスした感想は?」
ぐいぐいとつっこまれます。
今日の凛ちゃんは、いつも以上にアグレッシブですね。
「えっと、それは……」
「それは?」
「色々な想いがあって、とても一言では言い表せませんよ。ただ、それでも言うとしたら……幸せでした」
「……」
「凛ちゃん?」
「あーあ、爆発しないかしら」
「いきなりなんですか!?」
「いえ。親友がおもいきりのろけるものだから、つい」
「つい、で人の不幸を願わないでくださいよ」
「ふふ、ごめんね。でも、おめでとう」
「ありがとうございます」
「次は、先輩とえっちね」
「え、えええっ!!!?」
声がひっくり返ります。
たぶん、今の私、耳まで真っ赤になっていると思います。
兄さんと……え、えっちを……?
そ、そそそ、そんなこと……!
さすがに無理というか恥ずかしすぎるというか、でもでも、いつかはと思いますし、したいわけじゃないですし、だけど、今はまだ心の準備が!?
「ふふっ、あれこれ想像してる?」
「もうっ、凛ちゃん!」
ニヤニヤとしたような凛ちゃんの声に我に返り、声を大きくします。
「またからかったんですね」
「半分は本気よ」
ということは、半分は正解ということじゃないですか。
まったくもう。
「まあ、さすがにすぐ、っていうわけにはいかないけど……いずれはあることでしょう?」
「それは、まあ……私だって、いつかは、とは思いますけど」
「想像できる?」
「……少しは」
「結衣はエロい子ね」
「凛ちゃんが言ったんじゃないですか!」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、そういうことを想像することは悪くないことよ。というか、健全な方じゃない?」
「そう、でしょうか?」
「そうよ。三大欲求の一つだもの。考えない方が逆におかしいわよ」
「うーん……そう言われると、なんだか……」
「妄想しちゃう?」
「しません!」
「まあ、なにはともあれ、進展したようで何よりね。親友としてお祝いするわ、おめでとう」
「ありがとうございます、凛ちゃん」
「今日は遅いから、この辺にするけど……今度、きっちりみっちり詳細を聞かせてね」
「そ、それは……その時の気分次第ということで」
それから、軽くお話をして……
通話を終了しました。
凛ちゃんは、なんで電話をかけてきたんでしょうね?
「……心配してくれたんでしょうか?」
私にはもったいないくらい、できた友達です。
そのうち、私も凛ちゃんにお返しをしないと。
「それにしても……」
兄さんとえっちなこと……ですか。
凛ちゃんに言われたことが頭から離れません。
さすがに、まだそういうことは早いと思いますが……
いずれは、と思います。
いつか、そういう時が来るだろうと、今の私は疑っていません。
それはつまり……
「どうしよう……私、幸せすぎです」
今の私は幸せで幸せで……兄さんのことを思い浮かべながら、ニヤニヤとだらしのない笑みを浮かべるのでした。




