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273話 そして……

「結衣……?」


 結衣は答えない。

 ただ、その時を待つように……

 頬を染めながら、唇を差し出している。


「……」


 これは、つまり……

 そういうことだよな?

 いくら鈍い俺でも、この状況を誤解したり間違えたりすることはない。


 ただ……いいのか?


 俺がキスしたいって思っているのを見抜いた結衣が、仕方なく応えようとしているとか……

 いや、そんなわけないか。

 いくら結衣でも、そこまではしないだろうし……


 なら……す、するか?

 してしまうか?


 でも、なんかこう……どうすればいいんだ?

 すぐにしたら、がっついてると思われそうだし……

 そういうところは気にしなくていいのか?


「……兄さん」


 気がついたら、結衣がジト目になっていた。


「な、なんだ?」

「ヘタレですか」

「うぐっ」

「私が、こ、ここまでしているのに……なんで、何もしてくれないんですか?」

「いや、その……すまん。あれこれ考えていたら、つい……」

「あれこれ考えないでください。兄さんのしたいようにしていいんですよ?」

「それは……」

「女の子に、あまり恥をかかせないでください」

「そ、そうだよな……悪い」

「もぅ」

「念のための確認というか……結衣は、いいんだよな?」

「はぁあああ」


 盛大なため息をつかれた。


「あそこまでしておいて、いいも悪いもないですよ。それもわからないんですか?」

「いや、わかるんだけど、なんていうか……って、ごまかしてばかりだな、俺。悪かった」


 認めよう。

 いざ、こういうことになって……

 要するに、俺はビビっているのだ。


 この先の関係に進んでいいのか?

 妹である結衣と一線を越えていいのか?

 今更になって、迷ってしまっている。


 『兄妹』という言葉は、思っていた以上に大きいみたいだ。

 いつだったか、先生に俺達の関係を疑われた時のことを思い出す。

 今は、みんなが理解してくれている。

 でも、いずれ、理解してくれない人が出てくると思う。


 その時、俺はなんて言われようが構わない。

 でも、結衣が心なき言葉にさらされることは耐えられない。

 そんなことになるくらいなら……


「兄さん」


 再び、結衣のジト目。


「バカなことを考えてませんか?」

「な……バカなことじゃない。俺は、俺達の将来のことを真剣に考えて……」

「その言葉だけで、なんとなく、兄さんの考えていることが理解できましたよ。もう……本当にバカなことを考えていたんですね」


 一刀両断されてしまう。


「でもな……明日香達みんなは受け入れてくれてるが、そうでない人も出てくる。その時は……」

「その時はその時です」


 関係ないというように、それがどうしたと笑い飛ばすように、結衣はあっさりと言う。


「先のことを気にしても、仕方ないじゃないですか。私達が兄妹じゃなかったとしても、何かしらの障害はあったかもしれませんよ? 互いの両親に反対されるとか。色々な可能性があるんです。そういうことをいちいち気にしていたら、どうすることもできませんよ。私の言うこと、間違っていますか?」

「……いや、まったく」

「なら、気にしないでください」

「なんていうか……」

「はい?」


 こんなことを言えるようになるなんて……

 いつの間にか、結衣は強くなっていたんだな。


 ずっと……今の今まで、結衣は傷つきやすい女の子だと思っていた。

 過去のことや、両親のことがあるから……ありとあらゆる危険、害から、俺が守らないといけないと思っていた。

 そのために、必要以上に過保護になっていたのかもしれない。

 今回のことに関しても、結衣を傷つけまいとする思考が暴走してしまった。


 でも……


 結衣は成長していた。

 多少の困難なんて、自力ではねのけてしまうほど強くなっていた。

 寂しいようなうれしいような、複雑な気分だ。


「……そうだな。色々と気にするのは、やめにするか」

「そうですよ。そうしてください」

「結衣」

「は、はい?」

「キスしたい」

「ふぁ!?」


 瞬間的に結衣の顔が赤くなる。


「なんで、今更照れるんだよ?」

「て、照れますよ。いきなり、そういう話題に戻るし……まだ、してないですし……これでも、すごくドキドキしているんですからね?」

「俺もドキドキしてるよ」

「そうなんですか?」

「ほら」


 結衣の手を俺の胸に導く。


「ホントだ……兄さんの胸、どくんどくんって……私も、こんな感じになっていますよ。あっ、わ、私の方も確かめるなんて、そういうのはなしですからね!?」

「しないって」

「そうですか……あっさり断られると、それはそれで複雑です」


 どうしろと。


「兄さん……今度こそ、女の子に恥をかかせないでくださいね?」

「注意するよ」

「注意するだけですか?」

「じゃあ、行動で示すよ」

「あ……」


 そっと、結衣の腰に手を回す。

 そのまま抱き寄せた。


「……」


 結衣の綺麗な顔が目の前に。

 ついつい見惚れてしまう。

 そして、実感する。


 やっぱり、俺は結衣が好きなんだな。

 ずっとずっと、この先、一緒にいたいと思う。


「結衣」

「兄さん」


 結衣が、そっと目を閉じて……


 俺達の距離がゼロになる。

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