27話 妹は度々ピンチに陥ります
<結衣視点>
「起立、礼」
ショートホームルームが終わり、放課後が訪れました。
一分一秒でも早く兄さんに会いたいので、時間は無駄にできません。
教科書とノートを鞄にしまい、手早く帰りの準備を済ませます。
今日は、兄さんと一緒に帰る約束をしています。
ただ帰るだけじゃなくて、途中、スーパーでお買い物をする予定です。兄さん曰く、ご飯の材料がそろそろなくなる、とのことです。
スーパーで一緒にお買い物……まるで、夫婦みたいですね。
献立を考えながら、お買い物をして……
途中、店員さんにお似合いのカップルとか言われたりして……
兄さんと私は、照れながらも否定はしないで、そっと手を繋いで……
「……えへ♪」
とても素敵です。
早くお買い物に行きたくなりました!
そして、兄さんと甘い時間を過ごして……きゃあきゃあ!
「七々原さん」
「はい?」
ふと、クラスメイトに声をかけられました。
「七々原さんのこと、呼んでいる人がいるよ」
「わかりました。わざわざ伝えてくれて、ありがとうございます」
もしかして、兄さんでしょうか?
私に会いたくなって、教室まで迎えに来てくれたとか……
もう、仕方のない兄さんですね。
ずっと妹と一緒にいたいなんて、困った兄さんです。妹離れのできない、ダメな兄さんです。
でもでも、妹離れなんてしなくていいんですよ? ずっとずっと、私の隣にいてくださいね♪
……なんてことを思い、胸をときめかせるのですが、教室の外で待っていたのは見知らぬ男子生徒でした。
「えっと……?」
見た感じ、同学年のようですが、クラスメイトではありません。
ただ、どこかで見覚えがあるような……?
「ちょっといい? 話があるんだけど」
ああ……と、心の中で納得しました。
この態度、この独特の雰囲気……告白ですね。何度も経験しているので、事前に察知できるようになっていました。
それにしても、この人は、私に彼氏がいることを知らないんでしょうか?
兄さんという素敵な彼氏がいるのに、わざわざ告白するなんて……やれやれです。周りが見えていないというか、空気が読めないというか……
とはいえ、無視するわけにはいきません。
一応、話は聞いておかないと。
「ここでするような話ですか?」
「いや、できれば他の場所がいいな。えっと、中庭でいい?」
「はい、構いませんよ。ただ、ちょっと待ってくださいね」
携帯を取り出して、兄さんに、『すみません、少し遅くなります』とメッセージを送りました。
「じゃあ、行きましょうか」
一度、表に移動して、靴に履き替えます。
それから、ぐるりと校舎を回るようにして中庭に移動しました。
放課後になって、まだ少し。
中庭にいるのは私たちだけで、他には誰もいません。
「わざわざ、ごめんね」
「いえ、気にしてませんから。それで、話というのは?」
「あのさ、俺のこと覚えてないかな?」
「えっと……?」
そんなことを言われても困ります。
見覚えはあるような気はしますが、私にとって、兄さん以外の男の人はみんな同じ顔に見えるので……
「ほら。この前、七々原さんに告白したんだけど……」
「……ああ、そういえば」
兄さんに『フリ』をしてもらう前、たくさんの告白をされましたが……
その中に、こんな人がいたような気がします。
ハッキリとは覚えてませんが……でも、それは仕方ないことです。特に印象深い出来事というわけではありませんし、ちょっと食い下がられたくらいで、他になにもありませんでしたし……思い出せただけ、よしとしておきましょう。
「噂で聞いたんだけど、七々原さん、彼氏ができたんだって?」
「はい。なので、もしもそういう話だとしたら、申しわけないですけど……」
「彼氏、お兄さんなんだよね? そういうの、どうかと思うけど」
「はい?」
どうか、ということは……つまり、私と兄さんの仲を否定しているわけですか?
この人はなんですか? 私にケンカを売りにきたんですか?
内心、私が腹を立てていることにまったく気づかないで、男子生徒は勝手に語ります。
「ずっと見てたけどさ。お兄さんは、正直、七々原さんに優しくないっていうか、頼りないっていうか……なんか、ダメだよね。ああいうの男らしくないよ。正直、かなりださいし」
「はあ、そうですか」
「あれなら、俺の方が何倍もいいと思うよ。俺の方が、ずっと七々原さんを大事にできる。幸せにできる」
「はあ、そうですか」
「俺さ……今でも、七々原さんのことが好きなんだ。忘れられなくて、ずっと目で追いかけていて……お兄さんより、ずっと素敵な彼氏になるよ。だから、俺と付き合って欲しい!」
「はあ、そうですか」
もう、うんざりです……というか、頭に来ます。
ただ告白するだけならまだしも、兄さんを侮辱するようなことを言うなんて……
この人、どうしてくれましょうか?
「それにさ、血が繋がってないとはいえ、兄妹で恋人なんておかしいよ」
「え……」
無自覚な言葉の刃が、私の心にぐさりと突き刺さりました。
「俺も妹がいるからわかるけど、妹を恋愛対象と見るなんてこと、ありえないし。妹の方も、そう思ってるはずだよ? だから、そういうおかしな恋愛はやめて、もっとまともな恋をしようよ」
「そんな、ことは……」
やめて……やめてやめてやめて!
そんなこと、言わないでください!
私と兄さんの絆を否定するようなこと、口にしないで!
私は、兄さんの彼女なんです……
兄さんが、私の彼氏なんです……
私と兄さんに、血の繋がりはありません……本当の兄妹じゃありません……
それなのに、恋人の絆も否定されたら……私は、いったい、なんなんですか?
兄さんのなにになるんですか?
赤の他人になってしまうじゃないですか。
そんなことは……イヤ……
「だから、俺と……」
「……イヤ」
「え?」
「そんなこと、言わないで……イヤ、絶対にイヤ……」
「な、なんでだよっ! ろくに考えもしないで、また、すぐに断って……しかも、イヤなんて……理解できない! 絶対に、絶対に俺の方がいいはずなのに……くそっ!」
「っ!?」
大きな声が響いて、私はびくりと体を震わせました。
兄さん……私は……
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回から、少しの間、シリアスなシーンが続きます。
当初から想定していた内容です。
甘い展開はありませんが、妹の内面を深く知ることができるので、
その意味で楽しんでいただけたらと。




