269話 妹と花火・1
<宗一視点>
もうすぐ花火の時間ということで、鳥居の下に移動する。
ここでみんなと集合する予定だ。
最初から最後まで、結衣と二人きり……っていうのも悪くないんだけど。
でも、結衣だけじゃなくて、みんなのことも大事だ。
彼女ばかりを優先して、友情を疎かにしたくない。
それは結衣も同じらしく、特に不満そうな様子はない。
「兄さん。花火、楽しみですね!」
「テンション高いな」
「だって、兄さんとみんなと花火ですよ? 元気にもなりますよ」
「ま、俺も楽しみにしてるけどな」
「でしょう? あっ、明日香さんと真白ちゃんですよ」
結衣の視線を追いかけると、明日香と真白ちゃんが見えた。
ぱたぱたとこちらにやってくる。
「おまたせ。まった?」
「なんだよ。そのデートみたいなノリは?」
「待ち合わせの時は、こうするのがお約束でしょ」
「お約束は大事だよね。うんうん」
真白ちゃんが謎の同意をしていた。
あまり、明日香に毒されないようにね?
真白ちゃんは、ピュアなままでいてくれよ?
「おまたせしました」
「私達が最後か」
ほどなくして、凛ちゃんと小鳥遊さんも合流した。
これで全員集合だ。
「花火はどこで見るんですか、先輩?」
「神社の裏手に、ちょうどいい場所があるんだ。そこに行こう」
「人気のないところに後輩を連れ込むなんて、先輩は鬼畜ですね」
「兄さん……?」
「みんな一緒だろ!? っていうか、結衣も睨まないでくれ!」
「す、すいません。ついつい、反応してしまって……」
色々な意味で先が思いやられる。
――――――――――
神社の裏手にある広場に移動した。
木々が開けていて、街が一望できる。
花火を見るには絶好の場所だ。
「こんなところがあったんですね……私、知らなかったです」
「小さい頃、見つけた場所なんだ。あれからだいぶ経っているから、問題ないか心配だったんだけど……まだ平気みたいだな」
多少、草が伸びているが、気にならない範囲だ。
おそらく、ここも神社の管理区域に入るんだろう。
神主さんなどが、定期的に清掃をしているに違いない。
「他に誰もいないねー。私達の貸し切りだー!」
「こういうところに来ると、無性に叫びたくなるわよね」
「明日香は犬か」
「こんなにいいところなのに、どうして他に人がいないのかな?」
「景色は抜群だけど、草とか伸びてるからな。蚊とかが多いんだよ、ここ」
「「「……」」」
みんなが一斉に、なんて場所に案内しやがる、というような顔をした。
怖い。
「だ、大丈夫だって。この時のために、ほら。虫除けスプレーを用意しておいたから」
「兄さん、準備がいいですね」
「ほら、かけてやるから、順番に並べ」
プシュー、と一人ずつ虫除けスプレーをかけてやる。
最後に俺。
これで問題なし。
「花火まだかなー?」
「えっと……あと五分くらいかな?」
「五分かー。短いようで長いねー」
「何かを待っている時って、時間が経つのすっごい遅く感じるわよね」
「待っている間、先輩でもからかっておきましょうか」
「待て。軽く遊ぼう、みたいなノリで俺をいじろうとするな」
「先輩、好きでしょう?」
「好きなものか!」
「えー……」
「いや、がっかりされても」
「ふむ? 宗一先輩は、そういう人だったのか?」
「さっそく誤解されてるし!?」
「大丈夫ですよ、兄さん」
「結衣は信じてくれるよな……?」
「兄さんがどんな趣味でも、私はそれに応えてみせますから!」
「おいっ!?」
定番のオチに辿り着いて、みんなが笑い声をあげる。
楽しいな。
こんな時間がずっと続いてほしい、って思う。
「……まあ」
ずっとは無理なんだけどな。
どんなに楽しいことでも。
どんなに幸せなことでも。
いつか、必ず終わる。
どう足掻いても、どんなに抵抗しても、終わりを迎える。
だから、今この瞬間を、目一杯楽しんでおかないと。
それが、俺達が今できることだ。
「あっ」
結衣が空を見上げた。
ドーンッ、と腹に響く音と共に、夜空に花が咲いた。




