268話 妹とお祭り・8
<結衣視点>
射的を終えて……テンパりすぎて、結局、猫の置物は取れませんでした……再び、ふらふらとお祭りの会場を兄さんと一緒に歩きます。
「あっ」
「どうしたんですか?」
「そろそろ花火の時間だな」
「もうそんな時間ですか? 早いですね……」
「だな」
「兄さんと一緒だと、すぐに時間が過ぎてしまいます。うれしいような、残念なような……」
「残念はともかく、なんでうれしいんだ?」
「楽しい時間は早く過ぎる、って言うでしょう? つまり、それだけ兄さんと一緒の時間が幸せだった、っていう証明になります。だから、うれしいんですよ」
「そ、そうか」
「照れてます?」
「照れてない」
「残念です」
兄さんが、最近、私が凛ちゃんに似てきた、なんてことをぶつぶつとつぶやいています。
そんなこと、あるでしょうか?
私と凛ちゃん、ぜんぜん違うんですけどね。
「兄さん。もう一軒くらい、時間ありませんか?」
「それくらいなら問題ないぞ」
「じゃあじゃあ、最後にわたあめを食べたいです!」
「ずいぶん、子供っぽいものをチョイスするんだな」
「わたあめは、誰が食べてもおいしいじゃないですか。それに、私はまだまだ子供だからいいんです」
「違いない」
兄さんと一緒にわたあめの屋台に移動します。
奮発して、一番大きいものをお願いしました。
「はいよっ、嬢ちゃん」
「わぁ」
私の顔よりも大きいわたあめをもらいました。
最近、テレビで見かける特大サイズのわたあめによく似ています。
白一色じゃなくて、ところどころ、カラフルな色が混じっていて……
「これ、すごく凝っていますね」
「だな。テレビでよく紹介されてるのと同じ系列店舗なのか?」
「それは違うと思いますが……意識はしていそうですね。ふふっ」
「どうしたんだ?」
「私も、同じようなことを考えていましたから。兄さんと一緒で、うれしいです♪」
「そ、そっか」
「あむっ」
兄さんの照れ顔を見ながら、わたあめをぱくり。
ふわふわの感触。
舌の上ですぐにとろけて、甘味が口いっぱいに広がります。
「えへ、おいしいです♪」
「ホントにうまそうに食べるなあ」
「女の子は甘いものが好きですからね。大好きですよ♪」
わたあめだけじゃなくて、兄さんも大好きですけどね♪
「兄さんは食べないんですか?」
「んー……わたあめは嫌いじゃないが、さすがにその量は多いな。ちょっと胸焼けしそうだ」
「なら、おすそ分けしましょうか?」
「いいのか?」
「この量は、さすがに予想外なので。兄さんも一緒に食べてくれるとうれしいです」
「じゃ、お言葉に甘えて」
兄さんは手でわたあめをちぎろうとしますが……
それを拒否するように、私は、わたあめをひょいっと遠ざけました。
「結衣?」
「手でちぎるなんて、邪道ですよ。わたあめは、こう、ぱくりと食らいつかないと」
「そ、そうなのか?」
「私はこっちから。兄さんは反対側から。わかりましたね?」
「それは……なんていうか、恥ずかしくないか?」
一つのわたあめを二人で左右から同時に食べる……
言われなくても、恥ずかしいことってわかっていますよ。
でもでも、だからこそいいんじゃないですか!
こういうシチュエーション、すごく憧れていましたし……
それに、私のことを今以上に意識してもらえるかもしれません。
ここでやらず、いつやるというのですか!
「ほ、ほら。いきますよ」
「あ、ああ……」
「いっせーの……あむっ」
左右から同時にわたあめをぱくり。
瞬間、兄さんの顔がすぐ目の前に。
「……」
「……」
味は……よくわかりません。
「な、なんていうか、これは……」
「照れますね……」
わたあめを一緒に食べただけ。
それだけなのに、すごく恥ずかしいというか、ドキドキするというか……
そう……
顔を近づけるところなんて、まるで、キスをしたみたいで……
「……!!!」
その瞬間を想像してしまい、胸がさらにドキドキしてしまいます。
頬が熱いです。
きっと、私の顔、真っ赤になっているでしょうね……
「あー……結衣?」
「な、なんですか?」
「やっぱ、手で食べてもいいか? その……これは、さすがに恥ずかしい」
「そ、そうですね……仕方ない兄さん。それでもいいですよ」
本来ならば、ここでグイグイっと攻めるべきなのかもしれませんが……
勘弁してください。
これ以上は、私も厳しいです。
恥ずかしくて恥ずかしくて、もう、兄さんの顔がまともに見れないほどで……
あうあう。
さすがに、大胆すぎたような気がします。
でも……
「……ほんのりと、兄さんの味がしたような気がします。えへ♪」




