263話 妹とお祭り・4
「さて、どこから見て回る?」
射的にくじに金魚すくい。
焼きそばにたこ焼きにわたあめ。
なんでもありだ。
「えっと、えっと……むぅ、迷いますね」
「意外だ」
「え? なにがですか?」
「結衣のことだから、迷わず食べ物を選ぶかと」
「もうっ。私、食いしん坊キャラじゃありませんからねっ」
「冗談だよ」
「兄さんは意地悪です」
「なんだろうな。ついつい、ちょっかいをかけたくなる、っていうか……アレか。小学生のような心理かもな」
「それって……す、好きな子に意地悪をしたくなる、っていう……?」
「そんな気がするよ」
「……」
「結衣、どうした?」
「兄さん、今、自分がどれだけ恥ずかしいことを言ったか自覚していないんですか……?」
「……あ」
そういえば……
改めて自分の台詞を振り返ってみると、けっこう恥ずかしいことを言っているな。
不思議だ。
俺が、こんなことを口にするなんて。
「なんでだろうな? 言ってる最中は特に恥ずかしがることもなく、するっと出てきたよ」
「兄さんは鈍感ですから、羞恥に対する耐性もついているのかもしれませんね」
「結衣は恥ずかしいことじゃなくて、ひどいことを言うな」
「兄さんが悪いんです」
「否定できない……」
「あっ、兄さん。たこ焼きを食べましょう」
くいくい、と手を引かれて、たこ焼きの屋台へ。
「おじさん、一つください!」
「あいよっ。おや? 嬢ちゃんたち、お似合いのカップルだなぁ」
「もうっ、そんな本当のことを言うなんて。照れてしまいますよ」
「ほら、ちょっとサービスしておいたぜ。仲良くなっ」
「ありがとうございます」
お金を払い、たこ焼きを受け取る。
大したことはしていないのに、まけてもらうなんて……
女の子は得だなあ。
「ふー、ふー」
できたてアツアツのたこ焼きを冷ます結衣。
何度も息を吹きかけて……
はい、とこちらの口元に差し出してきた。
「うん?」
「うん? じゃないですよ。はい、兄さん。あーん」
「え? こんなところで?」
何度か、あーんを体験したことはあるが……
こんなにたくさんの人がいるところで、というのは初めてだ。
しかも、ふーふーまでしてもらって……
さすがに恥ずかしい。
でもまあ……今更か。
それに、恥ずかしいと思う反面、これはこれでいいか、なんて思う俺がいる。
これが噂のバカップル思考というやつかもしれない。
でも、バカップル上等だ。
結衣と一緒なら、なんでもこい……だ。
「あーん」
「はい、どうぞ」
「あむっ」
ほくほくのたこ焼きを頬張り……
「あっ、あつ!?」
「兄さん!? す、すいませんっ、まだ熱かったですか?」
「中がちょっと……んっ……でも、これは仕方ないだろうし……んく……」
ほふほふと変な吐息をこぼしながら、たこ焼きの熱さに口を慣らしていく。
ほどなくして口の中が落ち着いて、飲み込めるようになった。
外はカリカリ。
中はふわふわの生地。
それに包まれたタコは、屋台のものにしては意外にも大ぶりで、プリプリだ。
生地とタコが一体となって、幸せな味が広がる。
「うん、うまいな。タコの旨味と生地の旨味が重なり、口の中でほどよい……」
「あ、そういう感想はけっこうですから」
「……」
美食家ごっこをしようとしたら、バッサリとぶった切られた。
我が妹ながら容赦がない。
「兄さん。今度は、私の番ですよ」
「はいよ」
「あ、待ってください。ちゃんと、ふーふーをして冷ましてください。妹の口を火傷させるつもりですか?」
「えっと……ふー、ふー」
彼女の前でふーふーをするって、これ、異様に恥ずかしいな。
心なしか、周囲の視線を集めているような気がする。
あそこに初々しい恋人がいるよー、みたいな。
「ほい」
「あーん……あむっ」
十分に冷ましたところで、結衣の口にたこ焼きを放り込む。
「はふっ、はふっ」
「熱かったか?」
「ちょっと……でも、これくらいなら平気です。んっ……はむ……こくん」
たこ焼きを飲み込み、結衣がにっこりと笑う。
「おいしいですね♪」
「だよな」
「あと……兄さんの愛情をたっぷりと感じることができました♪」
「俺が作ったわけじゃないんだけど……」
「ふーふーしてくれたでしょう? えへ♪」
そんな風に笑うのは反則だ。
すごくかわいいから、照れてしまい、ついつい目を逸らしてしまうじゃないか。
ったく……俺は、いつまで付き合いたての恋人のようなことをしているんだか。
すいません。
さすがに疲れたので、不定期更新になります。
そんなに間は空けないつもりです。




