261話 妹とお祭り・2
「えへ♪」
夜の道を、結衣と手を繋いで歩く。
隣の結衣はニコニコ笑顔だ。
「まだ会場についてないのに、すごい笑顔だな。そんなに楽しみなのか?」
「それもありますけど……そうじゃなくて、今この瞬間も、すごく楽しいんですよ」
「なんでまた?」
ただ手を繋いで歩いているだけだ。
特別なことはしてないんだけど……
「わからないんですか?」
「わからん」
「減点1です」
「なんだよ、それ」
「減点10まで貯まると、ひどいことになります」
「口をきいてくれないとか?」
「……それは、私の方が参ってしまいそうなのでやりません」
「なら、罰はなんだ?」
「えっと……とにかく、ひどいことです!」
考えてなかったな。
最近、こういう適当な言動が目立つようになってきた。
優等生らしくないが……
こういう結衣の方が、俺は好きだな。
なんていうか、親近感が持てるというか、より身近な存在として感じることができる。
結衣が変わったのは……俺と恋人になったから?
自惚れかもしれないが、他に理由はなかった。
そうだとしたら、うれしい。
「降参。答えを教えてくれ」
「それはですね……兄さんと夜のデートをしているからですよ♪」
「夜のデート……なんか、卑猥な響きだな」
「ひ、ひわっ……!?」
結衣の顔がぼんっと赤くなる。
こういうところは変わらないらしい。
「な、何を言っているんですか、もうっ! もうもうもうっ」
「冗談だって」
「兄さんがそんなことを考えていたなんて……幻滅です」
「なら、どうする?」
「……そうだ。今日は、兄さんに全部おごってもらいましょう。それが罰です」
「そうきたか……」
彼氏として、お祭りの金くらい出すつもりだったので、特に問題はない。
大して高いものでもないからな。
「でも、夜のデートってどういう意味だ?」
「そのままですよ。こんな時間に出歩くことなんて、なかったでしょう?」
「そうだな。昼前に出かけて、日が暮れる頃に帰る。今思うと、すごい健全なデートをしてたな」
「だからですよ。普段はできないことを兄さんと一緒にする……ちょっと、わくわくするというか、ドキドキしません?」
「するかも」
「それが楽しいんですよ。それに、その……兄さんと一緒だから、なおさら楽しいんです♪」
「そっか」
結衣の頭をなでなで。
「な、なんですか?」
「なんとなく、こうしたくて」
「私は犬や猫じゃないんですよ?」
「わかってるよ。ただ、俺なりの愛情表現、っていうだけだ」
「愛情……はぅ」
照れる結衣はかわいい。
ましてや、浴衣姿となると破壊力が抜群だった。
俺の方も照れてしまい、ついつい、視線を明後日の方向に逸らしてしまうのだった。
――――――――――
神社の前に行くと、みんなが揃っていた。
「おっ、きたきた!」
「やっほー! お兄ちゃん、結衣お姉ちゃん、こっちこっちー!」
まず、明日香と真白ちゃんを見つけた。
明日香は意外というか、おとなしい雰囲気の深緑の浴衣だ。
一つ二つ、上に見えてしまう。
普段と違うイメージに、ちょっとドキドキしてしまう。
真白ちゃんは、丈の短いらしい浴衣だ。
子供っぽいところもあるが、よく似合っている。
丈の短い浴衣は、なかなか着こなすのが難しいから、その点、真白ちゃんはすごい。
「遅いわよ、二人共」
「あっ、お兄ちゃんと結衣お姉ちゃん、手を繋いでる! ひゃー、見せつけられちゃってるよー」
「あら、結衣にしてはやるわね」
「二人共、こんばんは」
真白ちゃんの後ろから、凛ちゃんと小鳥遊さんが顔を出す。
凛ちゃんは、結衣と同じような花柄の入った浴衣だ。
きっちりと下駄もはいている。
カランコロンと音を立てるところは、すごくかわいらしい。
小鳥遊さんは浴衣ではなくて私服だった。
今日はショートパンツ姿だ。
様になっていて、よく似合っている。
「これで全員集合ね」
「先輩以外、みんな女の子ですね……ハーレムでうれしいですか? ふふふっ」
「兄さん……」
「何も言ってないから、何も思ってないから」
ことあるごとにからかうのはやめてほしい。
「じゃあ、お祭りを楽しみましょーっ!」
「「「「おーっ!!!」」」」




