26話 妹はスカっとしたみたいです
ここ最近、余計な心配をかけてしまったお詫びとして、結衣をデートに誘った。
どこで遊んでもいいし、なにを食べても構わない。
そう、遠慮しないように言ったんだけど……
「なあ、ホントにこんなところでいいのか?」
「はい。一度、来てみたかったんですよ。ゲームセンター」
結衣が希望したデートは、ゲーセンデートだった。
こんな気軽なものでいいのかな……?
疑問に思うけれど、結衣は楽しそうに瞳を輝かせて、賑やかな音を放つ色々な筐体を見て回っている。
まあ、結衣が楽しいなら、それでいいか。
「ゲーセン、初めてなのか?」
「はい。ゲームセンターは不良の巣窟、という認識があったので、近寄ることもしていませんでしたよ」
「いつの時代の人間だよ、お前は」
「視界に入れることも避けていました」
「徹底しすぎ。というか、そこまでいくともはや病気のレベルだぞ」
「失礼ですね、兄さんは。そんなんだから、兄さんは兄さんなんですよ。どうしようもない兄さんです、まったく」
「よくわからないディスり方はやめてくれ。なんか、よくわからない傷つき方をするぞ」
まあ、結衣は優等生だから、歪んだ認識を持っていても仕方ないか。
「最近のゲーセンは、女の人も多いぞ? 音ゲーとかにハマってる人がいるし……あと、じいさんばあさんもよく来てるな。集会所代わりにしてることが多い」
「音ゲーというのは、アレのことですか?」
結衣が、興味深そうな感じで、一つの筐体を指さした。
矢印が画面外から次々と現れて、その中心をタップするという、ちょっと珍しいタイプの音ゲーだ。
ただ、難易度が気畜だから、初心者にはオススメできない。
「あれはやめといた方がいいぞ? 難しいから、金を無駄にするだけだ」
「そうなんですか? ならやめておきます」
「割り切りが早いな……じゃあ、どうする? 適当に遊んでみるか?」
「そうですね……あっ」
ふと、結衣の視線が、とある一点で固定される。
そこにあるのは……プリントシール機だ。
最近、数が減ってきたとはいえ、未だに学生たちには人気がある。それなりの大きさのゲーセンなら、一店に一台は見かける、お約束の代物だ。
「あれなら、私も知っていますよ。兄さん、一緒に撮りましょう?」
「えっ、一緒に?」
「なにか不都合が?」
「俺なんかと一緒でいいの?」
「もちろん。むしろ、兄さん以外でないとダメというか、兄さんから誘ってくれたデートの記念に……いえっ、なんでもありません。とにかく、妹であり、彼女である私がいいと言っているんですよ。つべこべ言わず、来てください。ほら、早く」
「わ、わかった。わかったから、手を引っ張らないでくれ」
妙に乗り気だな?
ゲーセンは初めてだっていうし、実は、ああいうのに憧れてたのかな?
「わっ、中は意外と広いですね」
結衣に手を引かれて、中に入る。
中は両手を広げられるくらいのスペースがあって、なかなかに快適だ。まあ、複数人で撮る場合がほとんどだから、これくらいないとダメなんだよな。
「これがカメラですよね? これで写真を撮るんですよね?」
「ただ写真を撮って、シールにするだけじゃないぞ? いろんな枠を選んだり、あと、ペンで落書きできたりするぞ」
「そんなことが?」
結衣の目がキラキラと輝いている。
子供みたいで、無邪気なところがちょっとかわいい。
「……ハートマークを……いえ、相合傘? ……や、やっぱり、それは恥ずかしすぎですね……なかなか難しいところです……」
「どうする?」
「えっと……初めてなので、そういうのはナシにしましょう。下手にあれこれ機能を追加したりすると、混乱してしまい、かえっておかしなことになってしまいそうです。せっかくの兄さんとの写真ですから、大事にしたくて……などということは、思っていませんからね? 変な勘違いはしないでくださいね? 兄さんを放置しておくのはかわいそうなので、仕方なく一緒してあげるだけですからね?」
なんだかんだ言いながらも、楽しみなんだろう。
うれしそうに、ニヤニヤしているんだけど……結衣のヤツ、自分で気づいていないんだろうなあ。
楽しいから、このまま放っておくことにしよう。
あと……結衣の笑顔はかわいいから、もうちょっと見ておきたい。
「じゃあ……兄さん、こちらに」
結衣の隣に並ぶ。
が、結衣は不満そうに言う。
「もっとこちらに、体をぴったりとくっつけてください」
「え? そこまでするの?」
「兄さんと私は、恋人なんですよ? 後々、何かの役に立つかもしれませんし、それらしい写真にした方がいいと思います」
「それもそうなんだけど……」
いいのかな……?
これ以上となると、ホントに、ぴったりくっつくことになるんだけど……
「ほら、兄さん」
焦れたように、結衣がぐいっと引っ張った。
――――――――――
<結衣視点>
んっ♪
兄さんの温もりを感じます。全身で感じて、ぽかぽかして、とても心地いいです。
はふぅ、これは素晴らしいですね……どさくさに紛れてこんなことができるなんて、プリントシール機は最高です!
「じゃあ、いくぞ?」
「はい、どうぞ」
兄さんがスイッチを押して、撮影が始まります。
いよいよ、私と兄さんのツーショットが……!
カシャ!
シャッター音と共に、一枚目が撮られました。
兄さんと一緒の写真……えへ♪ とても素晴らしいです。これは、家宝にしましょう。あと、財布に大切にしまい、いつも持ち歩くことにしましょう。本当は携帯にも貼りたいところですが、それは、なんていうか……は、恥ずかしいので、我慢です。でもでも、貼りたくて、見せびらかしたくて……あう、迷ってしまいます。
カシャ!
なんて、あれこれ考えているうちに二枚目が撮られました。
ふと、思います。
せっかくだから、三枚目は……
「兄さん」
「ん?」
「……もっと、こちらへ」
「ゆ、結衣っ?」
兄さんの手に、両手で抱きつきました。
兄さんが慌てますが、離してあげません♪ ぎゅうっと、捕らえてしまいます。今の私は、クモです♪
んっ……兄さん♪
三枚目の写真は、とても素敵なものに仕上がりました。
私は迷わず三枚目の写真を選択して、それをプリントしました。
「あっ」
中から出て、外で写真を受け取ります。
思っていた通り、素晴らしい出来です。私と兄さんの愛の結晶が形作られています。見てるだけで、ニヤニヤしてしまいます。もう、笑顔です。ずっとずっと笑顔です。
兄さん……デートに誘ってくれて、ありがとうございます。とてもとてもうれしいです♪
「次はどうする?」
「そうですね……っ?」
次の予定を考えていたら、不意に寒気のようなものを感じました。
誰かの視線。
慌てて振り返りますが……わかりません。というか、人が多くて、誰が私を見ていたのか判別できません。
「どうした?」
「……いえ。気のせいでしょう」
粘りつくような、イヤな視線を感じたのですが……
せっかくの兄さんとのデートを台無しにしたくないので、忘れることにしました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、いつも通り甘くしつつも、最後にちょっと不穏な感じを残しました。
この先、ちょっとずつシリアスになっていきます。
そのことで、妹の内面をより深く知ってもらえたらと思います。
これからもよろしくお願いします。




