254話 妹は兄と同じ布団で寝る・2
「それじゃあ……お邪魔します」
「……ああ」
結衣が、そっと布団に潜り込んできた。
そのまま、俺の背中に抱きつくような形で横になる。
「ち、近くないか?」
「それは、その……ベッドが狭いから、こうしないと落ちてしまいそうなんです」
「そ、そっか」
「はい、そうなんですよ。仕方なく、ですからね?」
「それなら仕方ないな」
「……」
「……」
最後は沈黙。
なんて気まずいんだ。
ぴったりくっついているから、結衣の体温がダイレクトに伝わってくる。
それだけじゃない。
どこか甘い匂いがして……
女の子の匂いに包まれているような気がする。
それと……
背中に当たる二つの膨らみ。
柔らかくて、服越しでもハッキリとわかるほどに大きく、存在感を主張している。
抱きつくようにしているから、押しつけられているみたいで……
色々な意味でやばい。
「……」
「……」
「兄さん」
「……なんだ?」
「よかった、まだ起きてましたね」
「そりゃ……横になったばかりだし」
本当は、ドキドキして眠れないだけだったりするが……
それを口にするのは負けのような気がして、黙っておく。
「少し、お話をしませんか?」
「話って言われてもな……今更、何かあるか?」
「その……してほしいこととか、ありません?」
「してほしいこと?」
「ですから、その……こ、恋人としての私にしてほしいこと、とか……」
「……」
一瞬、色々な妄想が思い浮かんだ。
しかし、自主規制。
こんなことを口にしたら、間違いなく結衣に嫌われてしまう。
「……今、えっちなことを考えませんでした?」
「な、なんのことだ?」
「ごまかさなくてもわかりますよ」
「……なんでバレた?」
「わかりますよ。私は、兄さんの妹で……彼女ですからね♪」
顔は見えないけど、結衣がうれしそうに笑ったような気がした。
「女の子は、好きな人のことはなんでもわかるものなんですよ」
「なにそれこわい」
「茶化さないでください」
「なんでも、ってことは……俺が今何を考えてるのかもわかるのか?」
「そうですね……」
ちなみに、今の俺は、政治経済について必死になって考えている。
そうでもしないと、抱きついてくる結衣に何かしてしまいそうだった。
考えるような間を挟んで……
ややあって、結衣が口を開く。
「兄さんのことだから、まったく関係のないことを考えてるんじゃないでうか? この場をごまかすようなことを……例えば、社会情勢とか考えて、必死に落ち着こうとしている、とか?」
「……当たらずとも遠からず、というところだな」
ほぼ正解だった。
ただ、素直に認めるのは悔しいので、そんな負け惜しみを口にした。
「やっぱり、緊張してます?」
「そりゃ、まあ」
「ですか」
なぜか、結衣はうれしそうだ。
兄をからかっておもしろいのか?
「結衣は、こんなこと……緊張しないのか?」
「してますよ」
「ホントか? かなり余裕があるような気がするんだけど……」
「それは、兄さんの気のせいですよ。ほら」
結衣がさらに強く、ぎゅうっと抱きついてきた。
「ちょっ」
「私の胸のドキドキ、わかりますか?」
「……わかる」
柔らかい感触だけじゃなくて……
結衣の胸の鼓動が伝わってきた。
ドクンドクンドクン、と早く打っている。
「こんな大胆なことをするの、私だって恥ずかしいんですからね」
「なら、なんでしたんだよ」
「……から」
「うん?」
「な、なんでもありませんっ」
声が小さすぎて、何も聞こえなかった。
いったい、結衣はなんて……?
「兄さん。そろそろ寝ましょう? 夜更かしは厳禁ですよ」
「と、言われてもな……」
こんな状況で、ちゃんと眠れるんだろうか?
「おやすみなさい、兄さん」
「おやすみ、結衣」




