250話 妹は兄と一緒にお風呂に入る・1
結衣の膝枕があまりに気持ちいいので、一時間ほど寝てしまった。
「あー……なんか、すごいスッキリした。疲れが全部とれたような気がする」
「私の膝枕のおかげですね♪」
「そうだな。ありがと、結衣」
「素直に言われると、照れてしまいますね……」
ぐぐっと背伸びをして、体をほぐした。
ふと、時計が目に入る。
「そろそろ風呂に入るか」
「っ」
なぜか、結衣がピクリと反応した。
「うん? どうしたんだ?」
「いえ、何も」
なんでもない、というような顔はしていないんだけど……
まあ、別にいいか。
兄妹でも恋人でも、あれこれ追求していたらうっとうしいだろう。
「じゃあ、お風呂の準備をしてきますね」
「それくらい俺がやるよ」
「私にやらせてください。ただでさえ、他の家事は兄さんに頼り切りになっているんですから」
「そうか? なら、頼むよ」
「頼まれました」
結衣はにっこりと笑い、浴室に向かった。
――――――――――
「ふぅーーー……」
湯船に浸かり、長い吐息をこぼした。
やっぱり、風呂は熱い湯に限るな。
熱い方が気持ちいいし、疲れがとれるような気がする。
まあ、最近はずっとのんびりしてるから、疲れなんて溜まっていないんだけど。
「それにしても……」
今日の結衣は、ちょっとおかしかったな?
突然、膝枕をしたりして……
今までにないパターンに、少し戸惑いを覚える。
「まあ、気持ちよかったんだけどな」
また膝枕をしてほしい。
あれは、男をダメにする最強兵器だ。
骨抜きにされる。
「って、いかん。何を考えてるかわからなくなってきた」
のぼせてきたのかもしれない。
「兄さん」
ふと、脱衣所の方から声をかけられた。
「お風呂、どうですか?」
「ん? ちょうどいいよ」
「よかったです。お風呂の準備するの久しぶりだったから、熱すぎるんじゃないかと思って……」
「そんな心配することないだろ。いくら結衣が家事ダメダメでも、最近の風呂は、自動でセットしてくれるんだから」
「むぅ……ダメダメは余計です」
「ははっ、悪いな」
「でも、ちゃんとできてよかったです。これで、安心して入ることができます」
……うん?
今、なんて?
問いかけるよりも先に、ガラッ、と浴室と脱衣所を隔てる扉が開く。
「………………」
タオルを巻いただけの結衣がいた。
胸がこぼれてしまいそうで……
白い太ももが見えていて……
色々なところがギリギリで、ちょっとした拍子で見えてしまいそうだ。
そんなことを自覚しているらしく、結衣は、これ以上ないくらいに真っ赤になっていた。
恥ずかしそうに体をもじもじさせていて、それがまた、そそられる。
って、俺は何を冷静に分析しているんだ!!!?
「ゆ、結衣っ!? な、ななな、何を……!?」
「いや、その、あの……兄さんの背中を流してあげようかな、なんて思いまして……そ、それで……乱入してみました!」
そんな、格ゲーみたいに言われても……
「あ、あまり見ないでください……恥ずかしいです……」
「わ、悪いっ!」
慌てて反対側を向く。
でも……あれ?
俺、別に悪くないよな?
結衣が勝手に風呂に入ってきたからで……
「兄さん」
「はいっ!」
ダメだ。
こういう場合、男の方が圧倒的に立場が弱い。
男は見えても……まあ、大して問題はないけど、女の子はそういうわけにはいかないからな。
「その……背中を流したいので、お風呂から上がってもらえますか?」
「えっ、いや……ほ、本気なのか?」
「ですっ」
気合を入れるように頷く結衣。
あるいは、そうすることで羞恥心をごまかしていたのかもしれない。
「……イヤですか?」
「え?」
「兄さんがイヤなら、諦めますけど……」
イヤじゃない。
好きな女の子に背中を流してもらうなんて、男の夢じゃないか!
「俺は……うれしい、けど」
「本当ですか!?」
「でも、なんでここまでするんだ?」
「それは、そのぉ……い、色々とあるんです。色々と!」
「そっか、色々か」
それ以上は追求できない雰囲気だった。
仕方ないので、なんでこんなことになったのか、考えることは諦める。
「えっと……じゃあ、お願いしようかな?」
「はい♪」
「で……一旦、あっちを向いてくれない?」
「どうしてですか?」
「いや、ほら……今の俺、何もつけてないから……そこのタオル取りたくて」
「っ!!!? す、すみませんっ」
結衣は耳まで赤くして、慌てて反対方向を向いた。
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