表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/300

244話 妹の手を

 パーティーが終わる頃には、すっかり日が暮れて、遅い時間になっていた。

 明日香の家はわりと近いし、真白ちゃんに至っては隣なので、送る必要はない。

 ただ、凛ちゃんと小鳥遊さんはそういうわけにもいかないので、兄妹揃って送ることにした。


「では、私はこの辺で」


 しばらく歩いたところで、小鳥遊さんが別の道を指さした。


「最後まで送るよ」

「いや、大丈夫だ。ここからなら、五分もかからないからな。それに、こう見えても、私は腕に自信があるのだ。この通り」


 その場でシャドーボクシングをする小鳥遊さん。

 意外とサマになっていて……というか、拳が見えないぞ。


「変質者が現れたとしても、この拳で成敗してくれよう」

「小鳥遊先輩って、何か格闘技を習っていたんですか?」

「護身のために、少々な」

「はえー」


 結衣がちょっとアホっぽい顔になった。

 一応、感心しているんだろう。


「ではな。あ、そうそう」


 立ち去ろうとして、足を止める。


「宗一先輩。改めて、今日はおめでとう」

「ありがとう」

「じゃあ、おやすみだ」


 にっこりと笑い、小鳥遊さんは自宅への道を歩いていった。


「私もここまででいいですよ」

「え? でも、凛ちゃんの家はまだ先ですよね?」

「どうして私の家を知っているの? 結衣って、もしかしてストーカー……?」

「何度も遊びに行ったことあるじゃないですか! 人を変質者みたいに言わないでくださいっ」

「ごめんなさい。反応がおもしろいから、つい」

「兄さん。凛ちゃんはここに置いていきましょう。どうなろうと、知ったことじゃないです」

「ま、まあまあ。落ち着け。で……家、まだ先なら、ちゃんと最後まで送らせてくれよ」

「先輩は、送り狼になる気ですか? やだ、えっち」

「兄さん……?」

「ならないし! っていうか、結衣は冗談を真に受けないでくれっ」


 凛ちゃんは、人をからかわないと生きていけないんだろうか?

 マグロの親戚なのかな?


「確かに、もう少し歩きますが……親が迎えに来てくれるみたいなので」

「そうなんですか?」

「ウチ、少々、過保護なところがあるので。だから、後は大丈夫ですよ」

「なら、それまでは一緒にいるよ」

「ウチの親に挨拶をしたいんですか? お父さん、娘さんをください……って」

「ニイサン……?」

「天丼はいいから!」




――――――――――




 凛ちゃんを送り、結衣と一緒に家に帰る。

 その途中……


「結衣」

「なんですか、兄さん?」

「今日はありがとうな」

「どうしたんですか、いきなり」

「こんなに楽しい誕生日は久しぶりだから……感謝してるんだ」

「わ、私は別に、兄さんのためにしたわけじゃないですからね? これは、その……ほら。日頃の感謝といいますか、なんていうか、仕方なくお礼をしようと思っただけで……深い意味はありませんよ?」

「照れ隠しか?」

「なっ……なんで看破するんですか! 鈍くない兄さんなんて、兄さんじゃありません!」


 俺、どういう風に思われているんだ……?


「結衣のことなら、最近、なんとなくわかるようになってきたんだ。付き合うことになったからかな」

「そ、そうですか……ふやぁ」

「なんだ、その声?」

「兄さんが甘いことを言うから、とろけちゃいそうになったんです」

「そんなこと言ったっけ?」

「自覚なしですか……そういうところは変わりませんね。やっぱり、鈍い兄さんです♪」


 なぜかうれしそうに言われた。


 鈍いままの方がいいんだろうか?

 でも、それで怒られたことあるし……

 わからん。

 乙女心は複雑だ。


「何かしてほしいことはないか?」

「なんですか、急に?」

「今日のお返しというか……結衣には、色々と助けてもらってるからさ。そのお礼がしたいんだ」

「それを言うなら、私の方が兄さんに助けてもらっているような……」

「そんなことは……って、繰り返しになりそうだから、返しはなしな? ほら、ほら。何かしてほしいことは? 今なら、なんでもしてやるぞ」

「なんでも、ですか?」

「……俺にできる範囲で」

「くすっ、急にヘタレましたね」

「仕方ないだろ。できることとできないことがあるんだ」

「……手を繋いでほしいです」


 そっと、結衣が手を差し出してきた。

 顔は反対側を向いているので、どんな表情をしているのかよくわからない。


 ただ、声だけで判断するのなら……

 照れているような気がした。


「そんなことでいいのか?」

「そんなことでいいんですよ♪」

「なら……」


 優しく、結衣の手を握る。


「んっ」

「これでいいですか、お姫さま?」

「うむ、よろしいですよ」


 こちらを見た結衣は、くすりと笑う。

 その笑顔が、何よりも愛しい。


「兄さんの手、やっぱり大きいですね。それに、温かいです」

「そうか? 自分じゃ、よくわからないけどな……結衣の手は、逆にちっちゃいな」

「兄さんのサイズに合わせているんですよ♪」

「ぴったりだな」

「はい♪」


 大切な温もりを手の平に感じながら、帰路をゆっくりと辿った。

ブクマや評価が、毎日更新を続けるモチベーションになります。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ものの新作を始めてみました。
↓のリンクから飛べます。
二度目の賢者は間違えない~最強賢者が転生したら、なぜかモテモテになりました~
よかったらどうぞ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ