244話 妹の手を
パーティーが終わる頃には、すっかり日が暮れて、遅い時間になっていた。
明日香の家はわりと近いし、真白ちゃんに至っては隣なので、送る必要はない。
ただ、凛ちゃんと小鳥遊さんはそういうわけにもいかないので、兄妹揃って送ることにした。
「では、私はこの辺で」
しばらく歩いたところで、小鳥遊さんが別の道を指さした。
「最後まで送るよ」
「いや、大丈夫だ。ここからなら、五分もかからないからな。それに、こう見えても、私は腕に自信があるのだ。この通り」
その場でシャドーボクシングをする小鳥遊さん。
意外とサマになっていて……というか、拳が見えないぞ。
「変質者が現れたとしても、この拳で成敗してくれよう」
「小鳥遊先輩って、何か格闘技を習っていたんですか?」
「護身のために、少々な」
「はえー」
結衣がちょっとアホっぽい顔になった。
一応、感心しているんだろう。
「ではな。あ、そうそう」
立ち去ろうとして、足を止める。
「宗一先輩。改めて、今日はおめでとう」
「ありがとう」
「じゃあ、おやすみだ」
にっこりと笑い、小鳥遊さんは自宅への道を歩いていった。
「私もここまででいいですよ」
「え? でも、凛ちゃんの家はまだ先ですよね?」
「どうして私の家を知っているの? 結衣って、もしかしてストーカー……?」
「何度も遊びに行ったことあるじゃないですか! 人を変質者みたいに言わないでくださいっ」
「ごめんなさい。反応がおもしろいから、つい」
「兄さん。凛ちゃんはここに置いていきましょう。どうなろうと、知ったことじゃないです」
「ま、まあまあ。落ち着け。で……家、まだ先なら、ちゃんと最後まで送らせてくれよ」
「先輩は、送り狼になる気ですか? やだ、えっち」
「兄さん……?」
「ならないし! っていうか、結衣は冗談を真に受けないでくれっ」
凛ちゃんは、人をからかわないと生きていけないんだろうか?
マグロの親戚なのかな?
「確かに、もう少し歩きますが……親が迎えに来てくれるみたいなので」
「そうなんですか?」
「ウチ、少々、過保護なところがあるので。だから、後は大丈夫ですよ」
「なら、それまでは一緒にいるよ」
「ウチの親に挨拶をしたいんですか? お父さん、娘さんをください……って」
「ニイサン……?」
「天丼はいいから!」
――――――――――
凛ちゃんを送り、結衣と一緒に家に帰る。
その途中……
「結衣」
「なんですか、兄さん?」
「今日はありがとうな」
「どうしたんですか、いきなり」
「こんなに楽しい誕生日は久しぶりだから……感謝してるんだ」
「わ、私は別に、兄さんのためにしたわけじゃないですからね? これは、その……ほら。日頃の感謝といいますか、なんていうか、仕方なくお礼をしようと思っただけで……深い意味はありませんよ?」
「照れ隠しか?」
「なっ……なんで看破するんですか! 鈍くない兄さんなんて、兄さんじゃありません!」
俺、どういう風に思われているんだ……?
「結衣のことなら、最近、なんとなくわかるようになってきたんだ。付き合うことになったからかな」
「そ、そうですか……ふやぁ」
「なんだ、その声?」
「兄さんが甘いことを言うから、とろけちゃいそうになったんです」
「そんなこと言ったっけ?」
「自覚なしですか……そういうところは変わりませんね。やっぱり、鈍い兄さんです♪」
なぜかうれしそうに言われた。
鈍いままの方がいいんだろうか?
でも、それで怒られたことあるし……
わからん。
乙女心は複雑だ。
「何かしてほしいことはないか?」
「なんですか、急に?」
「今日のお返しというか……結衣には、色々と助けてもらってるからさ。そのお礼がしたいんだ」
「それを言うなら、私の方が兄さんに助けてもらっているような……」
「そんなことは……って、繰り返しになりそうだから、返しはなしな? ほら、ほら。何かしてほしいことは? 今なら、なんでもしてやるぞ」
「なんでも、ですか?」
「……俺にできる範囲で」
「くすっ、急にヘタレましたね」
「仕方ないだろ。できることとできないことがあるんだ」
「……手を繋いでほしいです」
そっと、結衣が手を差し出してきた。
顔は反対側を向いているので、どんな表情をしているのかよくわからない。
ただ、声だけで判断するのなら……
照れているような気がした。
「そんなことでいいのか?」
「そんなことでいいんですよ♪」
「なら……」
優しく、結衣の手を握る。
「んっ」
「これでいいですか、お姫さま?」
「うむ、よろしいですよ」
こちらを見た結衣は、くすりと笑う。
その笑顔が、何よりも愛しい。
「兄さんの手、やっぱり大きいですね。それに、温かいです」
「そうか? 自分じゃ、よくわからないけどな……結衣の手は、逆にちっちゃいな」
「兄さんのサイズに合わせているんですよ♪」
「ぴったりだな」
「はい♪」
大切な温もりを手の平に感じながら、帰路をゆっくりと辿った。
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