241話 妹のサプライズパーティー・2
映画を観て……
その後、やや遅い昼を食べた。
それから、結衣が求めるぬいぐるみを探しに行く。
大きなデパートから街のおもちゃ屋さんまで、色々と探してみたものの、目的の品は見つからない。
そうこうしているうちに、日が傾いてきた。
「見つからないなあ……」
「そうですね」
「ここまで探して見つからないなんて、よっぽど貴重なものなのか? プレミアついてるなら、ネットで探した方が確実かもしれないな」
「そうですね」
「どうする? もうちょっと探してみるか? それとも、今日は諦めるか?」
「えっと……」
結衣はソワソワした様子で、しきりにスマホを見ていた。
「どうしたんだ?」
「あっ、いえ。なんでもありませんよ、なんでも」
「そうは見えないんだけど……」
「えっと、これは、その……ああもうっ、合図はまだなんですか」
「合図?」
「いえ、こっちの話です……あっ」
ちゃら~ん、と結衣のスマホが鳴る。
瞬間、ものすごい勢いで結衣がスマホをチェックする。
「あっ、やっと……!」
「ん?」
「兄さん、そろそろ帰りましょうか」
「え? ぬいぐるみは……」
「いいんですよ。目的は達成できましたから」
「目的? いや、でもぬいぐるみが……」
「だからいいんですってば! ほら、帰りますよ。レッツゴー、ホーム!」
「なんで英語?」
ぐいぐいと結衣に背中を押されて、帰路を辿る。
いったい、なんなんだ?
――――――――――
「私が鍵を開けますね」
「いや、どっちでもいいんだけど……」
「私が開けますからね!」
「あ、ああ」
なんか、さっきから結衣の様子がおかしい。
ソワソワしたり、キョロキョロしたり、落ち着かない様子だ。
何か企んでいるんだろうか?
とはいえ、結衣は悪巧みできるような子じゃないからな……
ダメだ。さっぱりわからん。
「さあ、兄さん。どうぞどうぞ」
結衣に手を引かれて、家の中へ。
そのままリビングに連れて行かれて……
パンッ! パパパンッ!!!
「「「「おめでとうっ!!!」」」」
突然、クラッカーが連発されて、紙吹雪が舞う。
「え? え?」
「宗一、おめでと」
「先輩、おめでとうございます」
「お兄ちゃん、おめでとう♪」
「宗一先輩、おめでとう」
「明日香? 凛ちゃん、真白ちゃん……それに、小鳥遊さんも?」
なんだ、これは……?
突然のことに頭が追いつかない。
いったい、何が起きて……え? これはどういうこと?
「兄さん、おめでとうございます」
結衣も加わり、なぜか祝福してくれる。
「おめでとう、って……えっと……ん? なんのことだ?」
「はぁ……本当に忘れていたんですね。ひょっとしたら、わざと気づいてないフリをしているのでは、なんてことも考えましたが……そうですね。兄さんにそんな器用なこと、できるわけないですね」
「よくわからんが、ディスられてることは理解したぞ」
「今日は何の日か、覚えていますか?」
「今日? えっと……夏休み?」
「予想を裏切らないボケ、ありがとうございます……」
結衣が深々とため息をついた。
「まったくもう……ホントに、自分の誕生日を忘れているなんて……」
「……ん? 誕生日?」
「そうですよ。今日は、兄さんの誕生日じゃないですか」
「……」
しばしの沈黙。
ややあって……
「あぁっ!!!」
ようやく何が起きているのか理解した俺は、ぽんと手の平を叩いた。
「そっか、今日は俺の誕生日か!」
「ようやく理解してくれましたか」
「ってことは、もしかしてみんな……」
「あんたの誕生日を祝うためにやってきたのよ」
俺の疑問に答えるように、明日香が代表して口を開く。
「そう、なのか……わざわざ俺のために……」
よく見れば、リビングのあちらこちらに飾り付けがされていた。
それに、テーブルの上にはたくさんの料理。
ようやく状況を理解できた俺は、ちょっと泣きそうになってしまいます。
「あら? あらあら? 先輩、泣いてしまいますか? サプライズは弱いんですか?」
「くそ、ここぞとばかりに楽しそうにして……」
「先輩をいじることは、私の人生の娯楽ですからね」
お願いだから、別の娯楽を見つけてください。
「もしかして、今日一日、結衣が俺を連れ回したのは……」
「はい。せっかくなので、サプライズをしたくて……私が兄さんを家から連れ出して、その間にみんなに準備をしてもらった、というわけです」
「そっか……えっと……なんていうか、その……ありがとな。すごく驚いたけど……すごくうれしいよ」
「そ、そうですか♪ 兄さんが喜んでくれたなら、考えた甲斐がありました♪」
「ありがとな、結衣。色々と大変だっただろ?」
「えへへ……兄さんのためですから♪ これくらい、なんてことありませんよ」
ぽんぽんと頭を撫でると、結衣は、ふにゃりとうれしそうに笑い……
他のみんなは、やれやれという感じで笑うのだった。
こうして、笑顔に包まれた俺の誕生日パーティーが始まる。
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