239話 妹はケーキを作りたい
<結衣視点>
「真白ちゃん……いえ、師匠! 私にケーキの作り方を教えてくださいっ」
誕生日プレゼントが決まり、次は誕生日ケーキ。
というわけで、後日、真白ちゃんの家を訪ねました。
突然の訪問にもかかわらず、真白ちゃんは笑顔で迎えてくれました。
真白ちゃんの部屋、ぬいぐるみがいっぱいでかわいいですね。
女の子らしさ全開、というような部屋です。
私もこういう部屋にしてみましょうか?
それで、兄さんのハートをもっともっとキャッチして……
「結衣お姉ちゃん?」
「はっ!? す、すいません。ちょっと、ぼーっとしてました」
「ううん、いいよ。それで、ケーキだったっけ?」
「はい。私に教えてくれませんか?」
「それはいいんだけど、どうして? ケーキ食べたいの?」
真白ちゃんは不思議そうに、コテンと小首を傾げます。
こういう仕草も、女の子らしくてかわいいんですよね。
素直な女の子の代表として、見習わないといけません。
「この前のスマホのメッセージを見ていませんか?」
「えっと……あっ! お兄ちゃんの誕生日パーティーをする、っていうヤツ? 見た見た♪ ナイスアイディアだね!」
「それに関連しているんですけど……」
「あっ、ケーキは結衣お姉ちゃんが手作りしたい、っていうわけなんだ?」
「はい」
「なるほどなるほど。そういうことなら、私に任せてちょうだい! 私の全てを伝授してみせよう。しかし、修行は厳しいぞ……ついてこれるか、弟子よ?」
「はいっ、師匠!」
「よろしい、ならばすぐに特訓じゃ!」
小芝居を楽しみながらキッチンに移動しました。
「勝手に使っていいんですか?」
「いいんだよー♪ お昼食べた後だから、しばらく使わないし、ちゃんと片付けをすれば問題ないよ。それに、この前買い物に行ったばかりだから、材料はたくさんあるよ」
「あっ。すいません、材料のこと考えてませんでした……」
「気にしないでいいよ。余ってるくらいだし。それに、お兄ちゃんのために、私も何かしたいなー」
「ありがとうございます。じゃあ、今回はお言葉に甘えますね」
「甘えられました!」
――――――――――
「結衣お姉ちゃんは、あれから料理の練習をしてる?」
エプロンをつけて、いざ! というところで、真白ちゃんがそんなことを尋ねてきました。
「そう、ですね……いつも、気がついたら兄さんが家事をしているので、なかなか機会がありませんが……ちょくちょくは」
「うーん……なら、料理の腕はあまり変わってないってことか」
「問題が?」
「ケーキって、けっこう難しいんだよね。市販の生地にデコレーションするだけなら簡単なんだけど……結衣お姉ちゃんは、一から全部作りたいんだよね?」
「はい。やっぱり、その方が兄さんに想いが伝わると思うので」
「熱々だねぇ~♪ でも、ちょーっと大変かも」
ごくり、とつばを飲み込みます。
真白ちゃん……いえ、師匠の口ぶりからするに、相当な高難易度ミッションみたいです。
私ごとき料理オンチが、ちゃんと作れるかどうか……
でもでも、諦めません!
兄さんに喜んでもらうため、誕生日パーティーを成功させるため。
全身全霊でがんばりたいと思います!
えいえい、おーっ!
「結衣お姉ちゃんは、何か希望はある?」
「希望……といいますと?」
「チョコケーキとかフルーツケーキとか。あるいは、王道にショートケーキとか。どんなケーキを作りたい?」
「そうですね……奇をてらっても仕方ないですし、やっぱり、王道のショートケーキでしょうか?」
「なるほどなるほど……そうなると」
真白ちゃんはテキパキと動いて、あちこちからケーキの材料らしきものをかき集めてきました。
それらをテーブルの上に並べて、満足そうに頷きます。
「準備完了♪」
「あれ? 材料はこれだけなんですか?」
卵とホットケーキミックスと牛乳。
それと、市販の生クリーム。
以上。
「なんでホットケーキの元……? 小麦粉とかベーキングパウダーとかオリーブオイルとか必要じゃないんですか?」
「なんでオリーブオイル……? オリーブオイル、そこまで万能じゃないよ……? それはともかく。本格的なケーキを作るとなると、やっぱり難易度が高いんだよね。ショートケーキって、簡単そうに見えて難しいし。今の結衣お姉ちゃんには、ちょっと厳しいかな」
「そうですか……」
「時間あるなら練習を繰り返してもいいんだけど、そういうわけにもいかないから……だから、お手軽ケーキにすることにしたの。ホットケーキの元を使えば、簡単にケーキが作れるんだよ♪」
「おぉっ、さすが師匠!」
「いちごは、今はないからパス、っていうことで。飾り付けだから、なくても問題はないだろうし」
「これだけでケーキが作れるんですか……魔法みたいですね。でも、生クリームは市販品なんですか?」
「ヘタに手作りするよりも、市販品の方がおいしいからね。一から、ってなると私でもなかなか」
「なるほど」
さっきから感心してばかりの私でした。
こんなに手軽にショートケーキが作れるなんて……料理って、本当に奥が深いですね。
今まで以上に興味が湧いてきました。
そして、そんな料理をマスターしている真白ちゃん。
さすがです。
師匠、マジリスペクトです。
「今、結衣お姉ちゃんが俗世に染まったような気が……?」
「気のせいです。それよりも、特訓をお願いします!」
「うむ。始めるぞ、弟子よ!」
「はいっ、師匠!」
……こうして、私と真白ちゃんのケーキ特訓が始まりました。
「ちがーうっ! そこは、もっと手首のスナップを効かせて!」
「はいっ!」
「優しく、赤ちゃんを抱くようにそっと、もっと穏やかな気持ちで!」
「はいっ!」
「焦ったらダメ! 根気よくのんびりとフォーマルに!」
「は、はい? ……はいっ!」
夕方までケーキを作り続けて……
「……うむ、お主に教えることはもうない。免許皆伝じゃ」
「ありがとうございますっ、師匠!」
なんとか、私はそれなりの形のケーキを作ることができたのでした。
疲れました……
今すぐ寝てしまいたいくらいに疲れました……
でも、兄さんのためにがんばったと思うと、悪くない気分です。
兄さん、喜んでくれるでしょうか?
笑顔を見せてくれるでしょうか?
結衣、おいしいよ、とか言ってくれて、頭を撫でてくれたり……きゃあきゃあ♪
兄さん、大胆です♪
でもでも、兄さんなら特別にいいですよ♪
何がいいか、って?
それは……秘密です♪
「ねえ、結衣お姉ちゃん」
「あ、はい。なんですか?」
「無事に作れたところなのに、水を差すみたいで悪いんだけど……最後のミッションが残っているよ」
「え、なんですか……?」
「……練習で作った、これらのたくさんのケーキ。捨てるのはもったいないから、全部食べないと……」
「あ……」
テーブルの上には、失敗作も含めて、練習で作ったケーキがずらりと並んでいます。
これを……ぜ、全部?
「か、カロリーが……」
「もったいないことをしたらダメだよ。これも練習のうちなんだからね」
「……はい」
「結衣お姉ちゃん……」
「なんですか……?」
「今度、一緒にランニングでもしよう……?」
「そうですね……」
兄さんに喜んでもらうためなら、太ってしまうことくらい……!
とは思いながらも、ケーキを食べる手はなかなか進まないのでした。
やっぱり、女の子だからカロリーは気になるんですよぉ。
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