238話 妹はプレゼントに悩みます
<結衣視点>
翌日。
私は、一人で駅前にやってきました。
外はうなるような暑さです。
どこでもいいから、冷房の効いた涼しい店の中に入りたいです。
「……あそこにしましょう」
喫茶店に避難しました。
アイスティーを頼んで、まずは一口。
「はふぅ……生き返りますね」
兄さんの誕生日プレゼントを求めて駅前に来てみたものの……
何を買うか、ちゃんと目的地を決めておくべきでしたね。
ふらふらと、あちこち店を見て回る予定でしたが……
そんなことをしていたら、熱中症になって倒れてしまいそうです。
今日の気温は、ホント、凶悪です。
「あら?」
「凛ちゃん?」
窓際の席に座っていると、ちょうど目の前を凛ちゃんが歩いていきました。
凛ちゃんはこちらに気づいた様子で、店内に入ってきました。
「奇遇ね」
「そうですね」
「隣、いい?」
「どうぞどうぞ」
凛ちゃんはアイスコーヒーを手に、隣の席に座りました。
凛ちゃんとアイスコーヒー……
なんとなく似合いますよね。
私は、コーヒーは苦くて飲めません。
「こんなところでどうしたの? 先輩に振られた?」
「振られてませんっ」
「弄ばれた?」
「違いますっ」
「捨てられた?」
「どうしても、そういう方向に持っていきたいんですね……」
「その方が結衣の反応がおもしろ……いえ、ただの冗談よ」
「私達親友ですよね!?」
相変わらず、凛ちゃんは意地悪ですね。
でも、親しい人しか意地悪をしないので、そう考えると……
……いえ、それでもうれしくないかもです。
親しいと思ってくれているのなら、そもそも意地悪しないでください、という話になりますよね。
「それで、どうしたの? ちなみに、私は単なる散歩よ」
「こんな暑い日に?」
「家にこもってばかりだと、体によくないもの。適度に歩いて、適度に汗をかかないと」
「私は、そんな風に考えられませんね。こんな暑い日は、冷房の効いたところに閉じこもっていたいです。って、話が逸れましたね。私は……」
兄さんの誕生日が6日後であること。
サプライズパーティーを考えていること。
それらを話した上で、今日は誕生日プレゼントを選びに来たことを話しました。
「でも、何を買うか決めてなくて……迷ってしまうんですよね」
「悩んでいるの?」
「はい。ここしばらくは、まともにプレゼントしたことなかったので……その分、良いものを贈って喜んでもらいたくて……そう考えると、なかなか」
「自分の体にリボンを巻いて、『プレゼントは私♪』でいいんじゃない?」
「そっ、そそそ、そんなことできませんよぉっ!?」
「そう? 男の人なら、間違いなく喜ぶわよ。先輩なら、一発で悩殺できるわよ」
「……ごくり」
「今、想像したでしょ? 結衣のえっち♪」
「し、してませんよっ」
「これっぽっちも? 欠片も想像してない?」
「……ちょっとだけしました」
「むっつりね。やだ、結衣ってばいやらしい」
「もうっ、凛ちゃん!」
凛ちゃん、意地悪です……
「私は真面目に悩んでいるのに……」
「ごめんなさい。冗談よ。結衣の反応がおもしろ……かわいいから、つい」
「今、面白いって言いかけましたよね?」
「気のせいよ。それよりも、真面目なアドバイスをしてあげる。聞きたい?」
「聞きたいですっ」
どんなプレゼントなら、兄さんが喜んでくれるか?
今の私は、そのことしか考えられません。
良いプレゼントを選ぶことができるのなら、ぜひとも、アドバイスが欲しいところです。
……凛ちゃんが相手というのは、不安なところですけどね。
「いつも身につけるようなものがいいわね。財布とかスマホケースとか……あるいは、靴とか」
「普通にまともなアドバイスでした……」
「驚かないでちょうだい。さすがに、何度も冗談は繰り返さないわよ」
「でもでも、それって、普通すぎません?」
「いつも身につけている、ってところがポイントなのよ。ちょっとしたことで、結衣が贈ったプレゼントを目にするのよ? その度に、先輩は結衣のことを思い出すに違いないわ。そうすることで、二人の絆はより固いものになるの」
「な、なるほど」
さすが凛ちゃんですね。
私だったら、オーソドックスなプレゼントはありきりたりと、除外していたかもしれません。
実にタメになります。
「あと、せっかくだから手紙を添えてみたら?」
「手紙……ですか?」
「長文じゃなくていいの。ありがとうとか好きとか、一言二言でいいの。そういうのがあると、サプライズ感が増すし、相手も喜んでもらえるわよ」
「なるほど……ちょっと待ってください。メモしておきます」
スマホを取り出して、凛ちゃんのアドバイスをメモします。
プレゼントは、日頃、身につけているようなもの……
その上で、ちょっとした手紙を同封する……
これでよし!
プレゼント対策はバッチリです。
「日頃、身につけているようなもの……うーん……色々あって迷いますね」
「なんなら、私も一緒に選びましょうか?」
「いいんですか?」
「私も、先輩にプレゼントはあげたいし、一緒に買いに行きましょう」
「ありがとうございますっ。凛ちゃんがいれば、すごく頼りになります」
「ケーキ一つ」
「うっ……ちゃっかりしていますね」
「大好きな先輩のためなら、これくらい安いものでしょう?」
「凛ちゃん、小悪魔ですね」
「先輩にもよく言われるわ」
「……仕方ないですね。ここのお代は私が持つことにします」
「さすが♪」
思わぬ出費ですが、兄さんに喜んでもらうためなら、なんでもしたいです。
待っていてくださいね、兄さん♪
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