231話 妹はデートの『定番』を楽しんでいる模様です
時間いっぱいカラオケを楽しんで、店を後にした。
「そろそろいい時間だな。昼にするか」
「そうですね」
「なにがいい?」
「兄さんこそ、なにがいいんですか?」
「俺はなんでもいいんだけどなあ……それこそ、そこの牛丼屋でもいいくらいだ」
「うわぁ……女の子とのデートで牛丼屋なんて、ドン引きですよ……兄さん、ダメダメですね」
「本気で行くわけじゃないからな? 俺だと適当に選んじゃうから、結衣の意見を聞きたい、って言いたいんだよ」
「んー……とはいえ、私にふられても困るんですよね。コレ、っていうところはないですし……」
そうなんだよな。
チェーン店なんかは多いけど、小洒落た個人店は少ないんだよな。
せっかくのデートだから良い店を……って思うけど、なかなか難しい。
「牛丼屋はさすがにないですけど……私は、ファミレスでもいいですよ」
「そうなのか?」
「兄さんと一緒にいられるなら、どこでもいいんですよ♪」
そういう直球な台詞はやめてほしい。
照れるから。
「ホントは牛丼屋でもいいんですけどね」
一瞬、『大盛り玉つゆだくで!』と大きな声で注文する結衣の姿が思い浮かんだ。
「でも、牛丼屋だとゆっくりできないじゃないですか。せっかくの兄さんとのデートなんです。お昼はゆっくりしたいです」
「そういうことか」
「そういうことなんです」
「じゃ、ファミレスにするか」
「はい♪」
――――――――――
「ん~♪ おいしいですっ」
満面の笑顔で、デザートのチョコレートパフェを食べる結衣。
その笑顔を、ついついじっと見つめてしまう。
「……? どうしたんですか、兄さん」
「あ、いや」
「私の顔、何かついてますか?」
「目と鼻と口が二つずつ」
「そんなの当たり前……鼻と口も!? 私、どんな妖怪なんですか!?」
「妖怪チョコレートパフェ」
「こじつけましたね!?」
どうにかごまかせたみたいだ。
かわいくて見惚れてた、なんてこっ恥ずかしくて言えないからな。
なんか……俺も変わったなあ。
以前は、結衣のことをこんな風に見るなんて思ってもいなかった。
でも今は、結衣のことを普通にかわいいと思う。
「それ、うまいか?」
「はい、おいしいですよ」
本当においしそうに食べるものだから、なんだか気になってきた。
「俺も食べようかな……うーん、でも食べ切れるか……そんなにたくさん欲しいわけでもないからな」
「……私の、食べてみますか?」
「いいのか?」
「もちろん、いいですよ。あっ、私が兄さんあーん、をしてあげたいとか、そういう理由じゃありませんからね!? 私はただの親切で、か、彼氏のためにやってあげたいというだけで、それだけなんですからね!?」
「たまにめんどくさくなるよな、結衣って」
「ずっと素直になれなかったから、その時の癖がなかなか抜けなくて……」
結衣はスプーンでチョコソースがかかったクリームとアイスをすくい、そっと差し出してくる。
「あ、あーん♪」
「……それ、やらないとダメ?」
「ダメです」
「即答かよ」
「なんで、今になってためらうんですか? 今まで、たくさんしてきたじゃないですか」
「あの時は演技だったから、ある意味、割り切れたというか……今はただ、純粋に恥ずかしい」
「ふふっ、兄さんの照れ顔、いただきました♪」
やっぱりやめた、という選択肢はないらしい。
まあ、今更か。
俺から言い出したことだし、こっ恥ずかしいものの、我慢しよう。
「……あーん」
「はい、どうぞ♪」
「あむっ」
チョコソースとクリームとアイス……三つがいい具合に合わさり、ほどよい甘さが口に広がる。
「うまいな、これ」
「でしょう? ファミレスのものと侮ることなかれ。最近のファミレスは、色々と進化しているんですからね。開発スタッフに専門のパティシエもいたりして、なかなか凝っているんですよ」
「それ、この前テレビでやってたよな」
「バレましたか」
「テレビの知識を自分のもののように語るな」
「兄さんにいいところを見せたくて、つい♪」
てへ、と舌を出す結衣。
そんな仕草もかわいい。
ああ、ダメだな。
なんか、最近の俺、ホント、結衣のことばかりだ。
結衣は、付き合うことになって、自分の中に変化が起きたって言うが……
それは結衣だけじゃない。俺もそうだ。
どんどん結衣に惹かれて、結衣のことばかり考えるようになっていた。
「あっ、兄さん。ほっぺにクリームがついてますよ?」
「え、マジで」
「じっとしててくださいね」
「えっ、ちょ……」
止める間もなく、結衣は指先で俺の頬についたクリームを拭う。
そのまま、自分の口に運んだ。
「んっ」
「……」
「えへへ♪ デート定番、やっちゃいました♪」
うれしそうに笑う結衣がかわいくて……
妙に体が熱くなってしまった。
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