229話 妹はこれからの関係に悩みます
食事の用意、食後の後片付け、ゴミ出し……などなど。
一日使って色々な家事に挑戦してみたけれど……
結果は散々なものだった。
料理は、何かしらアレンジしようとして、失敗してとんでもないものができあがり。
後片付けの最中に皿を割り。
ゴミ出しをしようとしたところで、黒いヤツが現れて大騒ぎになり。
「はぁ……私はダメ人間ですね……あはは……ダメダメな妹です……さあ、兄さん。なじってください、ダメ妹と」
度重なる失敗に、結衣はおもいきり凹んでいた。
部屋の隅で体育座りになって、暗い顔でぶつぶつとよくわからないことを呟いている。
妙なところで打たれ弱いんだよなあ。
苦笑しながら隣に座る。
そのまま、ぽんぽんと頭を撫でる。
「そんなに落ち込むなよ。まだ一日目だ。うまくいかなくても仕方ないさ」
「うぅ、兄さんは優しいです……こんなダメダメな妹にも優しくしてくれるなんて、聖人ですか……?」
「んな大げさな」
「でも、道端の石ころのような存在の私に優しくしてくれるなんて……」
「話がループしてるぞ」
「でもでも、私はアリンコ以下の存在で……」
「なんかめんどくさいな」
「うぅ、めんどくさい言われました……」
「す、すまん。つい本音が」
「どういうフォローですか!? まるでフォローになってませんよ!」
結衣はいつになく落ち込んでいる。
以前にも、料理の練習をしたことがある。
その時も失敗したけど、こんなに落ち込んではいなかった。
昔と今、何が違うんだろう?
「なんでそこまで気にしてるんだ? 前は、ここまで気にしてなかったと思うんだけど」
わからないので、ストレートに尋ねることにした。
「それは……」
「それは?」
「……兄さんの彼女になったから」
「うん?」
いまいち話が見えない。
俺の彼女になったことと、ここまで落ち込むこと。
どんな関係があるんだろう?
「家事の練習は、兄さんのためになにかしたい、っていう話だったじゃないですか? つ、付き合うことになったから……もっと、兄さんの役に立ちたくて」
「それなのにうまくできないから、落ち込んでるのか?」
「それもあるんですけど……」
それも、っていうことは、他にも理由があるのか?
「その……私……」
「無理にとは言わないけどさ、できれば話してくれないか? 結衣が悩んでいるなら、力になりたいんだ」
「えっと……」
迷うように視線を揺らして……
やがて、結衣はおずおずと俺を見た。
「兄さんに……呆れられたんじゃないかな……って」
「呆れる?」
「色々やったけど、全部ダメだったじゃないですか……だから、兄さんに呆れられたんじゃないかな、って……ダメな妹って思われて……わ……別れる……とか」
「……」
「兄さん?」
「はぁ……結衣はバカだな」
「なっ……ば、バカってひどいです! 私は、すごく悩んで……せっかく付き合うことができたのに、な、なかったことになったらどうしよう……って……」
「そう考えることがバカなんだ。これくらいで別れたりするわけないだろ」
「でも……」
「むしろ、俺がそんなことで別れるように見えてたのがショックだな」
「う……す、すいません……」
「あ、いや……今のは、ちょっと意地悪な言い方だったな。俺の方こそ悪い」
もどかしいな。
俺の心を見せることができるなら、こんな問題、すぐに解決するのに。
でも、そんなことはできない。
わかってもらえるまで、いくらでも言葉を、想いをぶつけるだけだ。
「まあ、確かに結衣の家事能力はひどいもんだ。たまに、ギャグでやってんのか? って思う時があるよ」
「うぅ……兄さん、ひどいです」
「最後まで聞けって。ひどいけど……でも、今更だろ? 何年一緒に暮らしてきたと思ってるんだ。結衣が家事できないことなんて、こっちは最初から知ってるんだよ。どれだけひどいかなんて、全部知ってるんだよ。その上で、結衣を選んだんだ。今更、家事ができないくらいで呆れたりなんて……ましてや、愛想を尽かすなんてありえない」
「……兄さん……」
「呆れるよりも、俺はうれしいよ。俺のために、家事をしようとしてくれたんだろ? 失敗したとしても、その気持ちで十分だ」
「……どうして、兄さんはそんなに優しいんですか?」
「結衣が大事だから」
「あ……」
「別に、俺は博愛主義じゃないからな。誰にでも優しいわけじゃない。結衣のことが大事だから……だから、なんでもしたくなる。一緒にいたくなる。それだけだよ」
「うぅ……兄さん!」
勢いよく抱きつかれた。
勢いあまって倒れてしまうものの、結衣は離してくれない。
「ごめんなさいっ、私、一人で暴走してました! 兄さんがそこまで考えてくれていたなんて……うぅ……それなのに、私……」
「いいって。ほら、落ち着け」
「はい……」
この体勢はまずい。
結衣に押し倒されているみたいで、色々な意味でやばい。
とにかくも起き上がり、改めて、結衣の話を聞く。
「私、兄さんと付き合えたことがうれしくて、本当にうれしくて……夢みたいに思っていて……それで、ちょっと不安になりました。いつか、この幸せが終わってしまうんじゃないか、って……だから、そんなことにならないように、家事とか、色々とできるようになろうとして……」
俺たちの距離感が問題なのかもしれないな。
兄と妹で、同じ家で暮らしてきた。
手を伸ばせばすぐに届く距離だ。
そんな中で付き合うことになって、さらに距離が縮まって……
結衣は、戸惑いを覚えたのかもしれないな。
どうしていいのかわからなくて……
それが不安に繋がり、不安定になってしまったのかもしれない。
「悪い。結衣のこと、もっと考えるべきだった。付き合ったばかりなのに不安になるなんて、思ってなかったから……って、言い訳だな、これは」
「そんな……兄さんが謝ることないです」
「まあ……どっちかが悪いってことじゃないのかもな。だから……」
「だから?」
「デートしよう」
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