225話 妹はライバルと共に笑う
<結衣視点>
兄さんに、好き、って言われました。
そして、ニセモノなんかじゃなくて……
本物の恋人になりました。
夢みたいです♪
胸がぽかぽかして、大きな声を出したくて、ニヤニヤが止まらなくて……
傍から見ると、ちょっとおかしい人ですが、でも、仕方ありません。
兄さんのことが今まで以上に好きになって……
好きで好きで好きで、たまらないんですから♪
とはいえ、喜んでばかりはいられません。
ちゃんと……報告をしないといけませんからね。
――――――――――
途中で、私が兄さんと合流するというハプニング……人為的なものなので、ハプニングというのは適当ではないかもしれませんが……があったものの、無事に肝試しは終わりました。
旅館に戻る途中、凛ちゃんが、『先輩と良い思い出を作れた?』って聞いてきました。
私が兄さんと二人きりになることを、あらかじめ予想していたみたいですね。
で、そのために、あえて肝試しを提案した。
凛ちゃん、おそろしい子!
でもでも、結果的に兄さんと付き合えることになったので、感謝してもしたりません。
ホント、ありがとうございます。
「おやすみなさい、兄さん」
「ああ、おやすみ」
部屋の前で兄さんと別れます。
肝試しをしていて、すっかり遅くなってしまったので、旅館に戻ったらすぐに寝ることになりました。
あちこち歩き回って疲れていたのか、布団に入ると、すぐにみんなの寝息が聞こえてきました。
ただ……
隣の布団……明日香さんからは、寝息が聞こえてきません。
なんとなく、ですけど……
でも、確信に近い思いがありました。
明日香さんは、私を待っている。
「……明日香さん。まだ起きてますか?」
「ええ、起きてるわよ」
返事はすぐに戻ってきました。
「ちょっと話したいことがあるんですけど……いいですか?」
「恋バナ?」
「……恋バナです」
「いいわよ。旅行の夜にぴったりの内容じゃない」
「あはは……」
たぶん、明日香さんは私と兄さんの関係の変化に気がついているはずです。
それなのに、どうして笑っていられるのか……
考えても、その理由はわかりませんでした。
「えっと、ですね」
「宗一とくっついた?」
「ふぇっ」
「あれ、違った?」
「や、やっぱりわかっていたんですか……?」
「まあ、戻ってきてからどことなく雰囲気が違ってたし……それに、あそこまでお膳立てしたんだから、進展してもらわなきゃ困るし」
「そ、それですよっ」
「うん? どれ?」
「どうして、私を助けるようなことをしたんですか? 私たち、ライバルなのに……」
最も聞きたい質問をぶつけると、沈黙がありました。
暗くてよく見えませんが……明日香さんは、笑っているような気がしました。
「あたし、宗一にもっかい告白したの」
「っ」
「でも、振られちゃった」
なんて言えばいいかわかりませんでした。
言葉を紡げないでいると、明日香さんは、気にしないでいいというように、優しい口調で続けます。
「でも、宗一を好きって想いは簡単に消えないのよね。振られたからもう終わり、って簡単に切り替えられたら便利なんだけど」
「そういうわけには……いかないと思います」
「なのよね。だから、あたしは今でも宗一が好き。好きだから……結衣ちゃんと引き合わせたの」
「えっと……? よくわからないんですが」
「宗一も、結衣ちゃんのことを気にしてたみたいだから……結衣ちゃんと引き合わせたら喜ぶかな、って思ったのよ。好きな人が喜ぶことなら、なんでもしてあげたくなっちゃうのよね……我ながら、厄介な性格してるわ」
「……明日香さんって、尽くすタイプだったんですね」
「意外でしょ?」
「正直に言うと、はい」
「惚れた弱み、っていうやつね。ライバルに塩を送ることになるってわかってたんだけど、宗一が喜ぶだろうな、って思ったら自分を止められなかったわ。で、結衣ちゃんと引き合わせたわけ。これが全部よ」
本当に全部なんでしょうか?
今の言葉にウソがあるとは思いません。
でも、全てを語っていないような気がします。
明日香さんは、優しい人ですから……
たぶん、私のことも考えてくれたと思います。
だから、私の背中を押すようなことをしてくれて……
シチュエーションを整えてくれて……
……これはもう、明日香さんに足を向けて寝れませんね。
「ありがとうございます」
「なんのこと?」
「とぼけるんですね」
「だって、わからないし」
「それじゃあ、私が勝手に感謝することにします。……ありがとうございます」
「宗一と仲良くね?」
「……はいっ」
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