22話 妹は幼馴染がうらやましいみたいです
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
<結衣視点>
放課後になり、私は上級生の教室が並ぶ階にやってきました。
目的は、もちろん、兄さんと一緒に帰ることです。
なにしろ、今の私たちは恋人ですからね。
一緒に帰っても、なにもおかしくありません。
というか、一緒に帰ることが当たり前なんです。
「……えへ」
他にたくさんの人がいる廊下ですが、ついつい、ニヤニヤしてしまいます。
兄さんと一緒に帰れると思うと、とてもうれしいんです。
もう毎日、繰り返していることですが……一向に飽きることはありません。
というか、兄さんは車の通る方を歩いてくれている、私の歩調に合わせてくれている……などなど、一緒に帰る度に新しい発見があって、より強く意識してしまいます。
だから、迎えに行く時はいつも笑顔です。
ですが、これでも自制している方なんですよ?
人目がなかったら……そう、例えば自室にいたら、兄さんのことを想い、何度も何度も愛しい名前を口にして、妄想に耽ってしまいますからね。
えへ、兄さん♪
って、いけません。こんなところなのに、妄想に飲み込まれそうになってしまいました。
優等生たる者、しっかりしていないといけません。だらしないところは見せられません。
私は、しっかりしないといけませんからね……そう、しっかりしないと……
「えっと……」
ひょこっと、兄さんのクラスを覗き見します。
兄さんは……いました!
いましたが……なにやら、天道さんとお話をしていますね?
なんの話でしょう? 気になります……
「あっ、結衣ちゃんだ」
天道さんが私に気づいて、ぶんぶんと手を振りました。
できることなら、兄さんに先に気づいてほしかったです。
私はクラスメイトの人たちに一礼して、教室に入ります。
「こんにちは」
「やっほー、元気してる?」
「はい。とても元気ですよ」
天道さんは、私がこの街に来てからの……つまり、兄さんの妹になった時からの付き合いです。小学生の頃からなので、私にとっても『幼馴染』と言えるお姉さんです。
明るくて親しみやすくて、とても優しい、大好きなお姉さんですが……
たまに、兄さんに気があるのではないか? と思う時があるんですよね。
ダメですよ。いくら天道さんでも、兄さんは渡せません。兄さんは私の彼氏ですからね……えへ。
「どうしたの? なんか、おもしろことでもあった?」
「いえ、なんでもありません。それより、兄さんになにか用が?」
「どっか寄ってかない、って話をしてたんだけど……もしかして、結衣ちゃん、先約?」
「特に約束はしてませんよ」
ちらりと、兄さんを見る。
「私はただ、兄さんと一緒に帰りたくて迎えに来ただけですよ」
おぉっ、とクラスの人たちが声を出しました。
言ってしまいました! こんなにたくさんの人の前で、彼女らしいことを言ってしまいました! しかも、天道さんの前で!
さすがに、恥ずかしいです。顔が赤くなってしまいます。
でもでも、それ以上に、兄さんは私の彼氏なんです、と自慢するような気になれて……
そのことが、とてもうれしくて……
頬が緩んでしまいそうです。というか、もう緩んでいるかもしれません……えへ。
我慢できません。
だって、それくらい、兄さんのことが好きなんですから♪
「ありゃ。じゃあ、あたしは邪魔かしら?」
「そんなこと言うなよ。結衣は、そんな風に思わないぞ? なあ」
「ええ。邪魔なんて思わないですよ」
本当は、兄さんと二人きりでイチャイチャしたいですが……
だからといって、兄さんの交友関係にまで口を出して、束縛するつもりはありませんからね。相手が天道さんなら、たまに遊ぶくらい、なんてことはありません。
もっとも、私の知らない女の子ならば、その時は許しませんが!
「じゃあさ、結衣ちゃんも一緒に遊ばない?」
「えっ、私もですか?」
「二人が付き合い始めてから、ぜんぜん話せてないじゃん? 一応、遠慮してたんだけど……結衣ちゃんがいいなら、一緒に遊びたいな。せっかくだから、宗一とのあまーい話でも聞かせてよ。あと、恥ずかしい話もセットで」
兄さんとの甘い話……それはいいですね!
兄さんのことなら、何時間でも語れますし、それに、今後のイチャイチャの参考になりそうですし、ぜひとも一緒したいです。
「兄さん、いいですか?」
「もちろん。断る理由なんてないだろ」
「じゃあ……私も一緒しますね」
「はいはーい。結衣ちゃん、お持ち帰りー」
「ひゃんっ!?」
いきなり天道さんに抱きつかれました。
驚いて、ついつい変な声が出てしまいます。
私を抱きしめていいのは、兄さんだけなんですが……
まあ、天道さんは女の子ですし、ノーカウントにしておきます。
「うーん。結衣ちゃんって、抱き心地がいいよね。肌すべすべだし、柔らかいし、良い匂いするし……」
「あ、あのあのっ。そういうことは、なるべく兄さんの前では……はぅんっ」
あちこちを触られて、とても恥ずかしいです。
うぅ……兄さんの前で、こんな……
でもでも、兄さんが赤くなりながら、じーっとこちらを見ています。
兄さんも、こんな風に妹を抱きしめていいんですよ?
というか、抱きしめてくださいね♪
「ほ、ほら。じゃれあいはそこまでにして、行くぞ」
「そうね。のんびりしてたら遊ぶ時間、なくなっちゃうし……れっつごー!」
三人揃って、教室を後にしました。
廊下を並んで歩きながら、世間話に花を咲かせます。
そこで、ふと思い、天道さんに尋ねてみます。
「ところで、天道さんは、よく兄さんと遊びに?」
「んー……それなりにね。こいつ、一人だから、あたしが構ってあげないと泣いちゃうのよ」
「ウソを教えるな、ウソを」
「兄さん……ぼっちならば、私が構ってあげてもいいですよ?」
「優しさに満ちた瞳が痛い!?」
「まあ、週に2~3回遊ぶ、ってくらいかしら? 結衣ちゃんと付き合い始めてからは、付き合い悪くなったけどね」
「それは、悪いと思ってるよ。だから、今日は付き合うことにしただろ?」
「感謝感謝」
二人はとても仲が良さそうです。
「……うらやましいです」
私も、天道さんみたいに兄さんと遊びたいです。
たくさん、たくさん遊びたいです。
二人きりで遊びたいです。
思い出が欲しいです。
「……ちょっと、真面目に考えてみましょう」
私は、密かに今後の計画を立てるのでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
久しぶりに幼馴染が登場です。
でも、また消えます。
幼馴染の出番は、もうしばらく先なのです……




