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219話 幼馴染

 草むらがガサガサと揺れてきゃーと悲鳴を上げたり。

 怖がられて抱きつかれて体と体が密着したり。

 その拍子に転んでスカートがまくれたり。


 ……そんなお約束のハプニングが起きることはなく、俺と明日香は何の問題もなく神社にたどり着いた。


「到着、っと」

「元気だなあ」

「大した傾斜でもないし、歩いたのって数百メートルくらいでしょ? それくらいで疲れるほど、老いちゃいないわよ」

「いや、そういう意味じゃなくて……ぜんぜん怖がったりしないな、お前」

「こーら、女の子をお前呼ばわりしないのっ」

「あたっ」


 コツン、とこづかれた。


「いやいや、明日香は女の子っていう感じじゃ……ぐはっ!?」

「あん?」

「イエ、ナンデモアリマセン」


 わりと本気の一撃を喰らい、俺はおとなしくなる。


 こぇえ。

 この幼馴染、凶暴すぎる。

 誰かおとなしくなるように調教してくれない?


「他のみんなは、もう戻ったのかしら?」

「たぶんな」


 行きと帰りで道が違うから、すれ違うことがないんだよな。

 そのせいで、余計に孤独感を味わうことができる。

 この肝試しを考えた凛ちゃんは、なかなかのやり手だ。


「ちょっと休憩していきましょうか」

「疲れてないんだろ?」

「はぁ……このニブチン」

「な、なんだよ」

「せっかく二人きりになったんだから、少し話がしたいって言ってるのよ。休憩なんて、そのための方便よ。それくらい察しなさい。だから、鈍いとか唐変木とか朴念仁とかウドの大木とか言われるのよ」

「それ、主に明日香が言ってないか……?」


 フルボッコだ。

 なぜにここまで言われなくちゃならん?


 とはいえ、俺が鈍いのは確かなので、反論はできないのであった。

 悲しい。


 適当なところに、明日香と並んで座る。

 そのまま夜空を見上げた。


「わぁ……綺麗」

「だな」


 夜空は無数の星が輝いていた。

 使い古された表現だけど、宝石を散りばめたみたいだ。

 地元の夜空とはぜんぜん違う。

 空気が澄んでいて、星の輝きがハッキリと見える。


「吸い込まれそうな夜空だな」

「そうね……ずっと、こうして見ていたいくらい」

「それもいいかもな。明日香と一緒なら楽しそうだ」

「なっ……」


 明日香が赤くなる。


「ど、どうして、そういうことを簡単に言えるのかしら、この男は……」

「うん? ……ああ」


 思い返してみると、我ながらクサイ台詞だ。


「もしかして、照れてるのか?」

「……そうよ。好きな男の子からそんなことを言われて、ドキドキしない女の子なんていないわ」

「お、おう……」


 思わぬ反撃に遭い、しどろもどろになってしまう。

 ただ、明日香も、自分で言っていて恥ずかしかったらしく、照れくさそうに小さく体を揺らしていた。


 照れる幼馴染の姿は新鮮で、素直にかわいいって思う。


 ただ……


 ……結衣に対して抱く『かわいい』とは、ベクトルが違うんだよな。


「ねえ、宗一」

「うん?」

「あたしたちって、腐れ縁よね」

「まあ、そう言うかもしれないな」

「ずっと一緒で、同じ学校で、しかも同じクラスで……宗一のストーカー癖にも困ったものね」

「俺が悪いみたいに言うな!?」

「あははっ、ごめんごめん。ついつい、あんたを相手にしてると、こうなっちゃうのよね」

「ったく……」

「でもね……宗一がずっと一緒にいてくれて、あたしはうれしかったわ」

「そう、なのか?」

「もちろんよ。好きな男の子と一緒にいることができて、うれしくない女の子なんていないわ」

「っ……ま、またそういうことを」


 この幼馴染は、あっけらかんと言ってくるから対処に困る。

 もちろん、本気なんだろうけど……

 かといって、こちらも本気になっていいのかわからない具合の、適当さ加減も混じっていて……

 結果、対応に困る。


 明日香を面白がらせるように、どぎまぎしてしまうだけだ。


「ねえ、宗一」

「なんだよ」

「これからも、あたしと一緒にいてくれない?」

「明日香……?」


 じっと、明日香が俺を見つめる。

 その目は真剣だった。


「ずっと一緒にいたからなのかもね。あたし、宗一が傍にいないと落ち着かないの。一緒じゃないと、ダメみたい。空気みたいなものね。傍にいて、そこにあって当たり前の存在……あたしにとって宗一は、そういうものなのよ」

「……」

「だから……一緒にいてくれないかな?」


 それは、紛れもなく明日香の告白だった。

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