218話 妹は焦らない
<宗一視点>
旅行二日目の夜。
先に風呂に入り、スッキリしたところで飯を食べた。
幸い、昨夜のような惨劇が起きることはなくて……
楽しい時間を過ごすことができた。
昨夜の惨劇を知った凛ちゃんの叔父さんが、飲み物は一目でわかるジュースにしてくれたのだ。
おかげで、雰囲気酔いすることもなくなった。
マジ感謝。
で、今は何をしているかというと……
「その時、女の子は確かに聞きました……ぴちゃり、ぴちゃりと、何か、水のようなものが滴り落ちる音を……」
凛ちゃんが険しい表情で、しかし、淡々と語る。
逆に、それが妙な雰囲気を出していて、怖い。
部屋が薄暗いこともあり、雰囲気はたっぷりだ。
他のみんなは凛ちゃんの紡ぐ言葉に魅入られたように、耳を傾けている。
「早く家に帰らないと……女の子はそう思うものの、好奇心には勝てませんでした。ちょっとだけなら……女の子はゆっくりと振り返ります。すると……そこには血まみれの女の人が!!!」
「「「ひゃあああああぁっ!!!?」」」
ここぞとばかりに声を張り上げる凛ちゃん。
結衣、明日香、真白ちゃんが抱き合うようにして悲鳴を上げた。
「ほぅ、気配をさとられることなく背後をとったのか。その女の人は、なにかしらの武術を収めているのだろうか?」
一人、小鳥遊さんは的はずれな感想を得ていた。
暑い夏の夜。
そんな夏にすることといえば、怪談。
というわけで、各自とっておきの怖い話を持ち寄り、披露していたんだけど……
「凛ちゃん、すごいな。変な言い方かもしれないけど、プロみたいだよ」
「そうですか?」
ケロリと元の調子に戻り、相づちを打つ凛ちゃん。
稲川○二が降霊したように語っていたのに、今は、普通の女の子に戻っていた。
「うぅ……怖いです、凛ちゃん、本気すぎますよ……」
「ただの怪談かと思ってたら、舐めてたわね……こ、これほどなんて」
「ふぇ……私、夜におトイレ一人で行けないかも……」
「三人とも、まだまだですね」
「何を勝ち誇っているんだ、何を」
ついつい、凛ちゃんにツッコミを入れてしまう。
「というか、これくらいで怖がっていたら、本番が大変ですよ」
「それ、ホントにやるんですか?」
「ええ、もちろんよ」
ふふふっ、と凛ちゃんが悪女のように笑う。
今なら、悪の組織の女幹部と言われても信じてしまいそうだ。
「夏と言えば怪談。怪談といえば、肝試しよ♪」
――――――――――
そんなわけで、俺たちは旅館を後にして、裏手にある小さな山にやってきた。
山といっても登山をするわけじゃない。
さきほども凛ちゃんが言ったように、目的は肝試しだ。
少し歩いたところに、無人の神社があるらしい。
凛ちゃんの話によると、管理の手が行き届いていないらしく、いい感じに廃れていて雰囲気が出てるらしい。
手回しがいいと褒めるべきか、そこに凛ちゃんが用意した札が置いてあるので、それを持ち帰ること。
それが今回の肝試しの目的だ。
言葉にすると簡単だけど、道中は街灯が一つもない。
明かりは懐中電灯のみ。
雰囲気は抜群だろう。
よくもまあ、こんなところを見つけたものだと感心する。
こういうことになると、凛ちゃんってものすごい張り切るよな。
人をからかうことが大好きな小悪魔……最近、悪魔に昇格しつつあるような気がする……なだけはある。
「じゃあ、ペアを決めますよ」
凛ちゃんが用意したくじでペアが作られる。
一組目は、結衣と小鳥遊さん。
二組目は、凛ちゃんと真白ちゃん。
最後は、俺と明日香だ。
「うぅ、私たちがトップバッターですか……」
「安心するがいい。幽霊が現れたとしても、結衣さんは私が守るぞ」
「やだ……小鳥遊先輩が男前です……」
「惚れてもいいぞ?」
「それはありません」
「むぅ、残念だ」
小鳥遊さんが言うと、冗談なのか本気なのかわからないな……
まあ、未練がましい様子はないから、冗談なんだろうけど。
「じゃあ、行ってきますね……」
「行ってくるぞ」
結衣はびくびくしながら、小鳥遊さんは堂々としながら、山道に消えた。
「次は私たちね」
「凛お姉ちゃん……手を繋いでもいい?」
「ええ、いいわよ」
「わーいっ♪」
「でも……その手は、本当に私の手なのかしら? ある時を堺に、別の人に入れ替わっていたりして……ね」
「ぴゃあっ!?」
良いリアクションをする真白ちゃんに、凛ちゃんは満足そうにほっこりした顔を作る。
小悪魔でS……なんて厄介な性格をしているんだ。
「じゃあ、先輩方、行ってきますね」
「私たちの無事を祈ってね……?」
俺たちも肝試しに参加するんだけどね。
心の中でそんなツッコミをしている内に、二人は足を進めた。
残されたのは、俺と明日香の二人。
「さて……そろそろ、あたしたちも行きますか」
「そだな」
ある程度時間が経ったところで、明日香がそう言う。
同意して、歩き出そうとして……
「なにかあったら、ちゃんと守ってね?」
「守る必要がなさそうな……いてっ」
こづかれながら、俺たちは山に入った。
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