216話 妹の決断・2
<結衣視点>
「……はい?」
私と兄さんの秘密。
おもいきって、明日香さんに打ち明けたんですけど……
「えっと……あの……今、なんて?」
「だから、知ってるわよ」
「……」
今、明日香さんはなんて言ったんでしょうか?
私の聞き間違いでなければ、『知っている』と言ったような……?
いやいや、まさかそんな。
ありえませんよ。
知っているとしたら、もっとこう……色々とあるはずじゃないですか?
修羅場になっていてもおかしくないと思うんですよ。
「あっ、ひょっとして別の話と勘違いしているんですか? ほら、私と兄さんは血が繋がっていないとか、そういう話と聞き間違えたとか……」
「そっちも知ってるけど……結衣ちゃん、ホントはまだ宗一と付き合ってないんでしょ?」
「……」
再び、明日香さんはハッキリと言いました。
今度は、否定のしようがありません。
聞き間違えのしようもありません。
明日香さんは、私たちの秘密を知っていたんです。
「えええええぇっ!!!?」
「結衣ちゃん、驚きすぎよ」
「だって、えっ……ちょ……えっ、あれぇえええええっ!!!?」
日頃のキャラが崩壊してしまうくらいに驚いてしまいます。
「ど、どうして知っているんですかっ? 誰にも話したことないのに……まさか、兄さんが?」
「ううん、宗一は何も言ってないわよ。宗一にカマかけて聞き出した、ってこともないからね?」
「なら、どうして……」
「どうして、と言われても……」
明日香さんが苦笑した。
本当にわからないの? っていうような顔をしています。
はい、わかりません。
さっぱりです。
この数ヶ月間、誰にもバレず、守り通してきた秘密……
どうして、明日香さんに?
「二人の秘密に気がついた理由は、そうね……強いてあげるなら、同じ人を好きになったこと、かしら」
「兄さんを……?」
「好きな人って、自然と目で追いかけちゃうでしょ? だから、あたし、いつも宗一のことを見ていたの。あ、これは恥ずかしいから、本人には秘密ね?」
「はあ……」
「で、ずっと宗一を見てきたんだけど……あいつ、全然変わりないのよね」
「変わりがない、というのは?」
「結衣ちゃんと付き合う前も付き合った後も、『いつも通り』だった、っていうことよ」
「あ……」
なんとなく、明日香さんの言いたいことが理解できました。
「恋人ができたら、普通、浮かれるものじゃない? 相手のことをよく考えるようになったり、一緒にいたいと思うようになったり……今までにない『変化』があるはずなのよ。それなのに、宗一には一切それがなかった。最初は、朴念仁だから恋も苦手なのかなー、なんて思ってたんだけど……それにしても、変化がなさすぎたのよね。恋人がいるような態度に見えなかったのよ」
「なるほど……そう言われると、その通りですね」
私が兄さんに頼んだのは、恋人の『フリ』。
『ニセモノ』であって、『ホンモノ』ではありません。
演技をすることはできても、心は偽ることはできない。
そこを、明日香さんは的確に見抜いたんでしょう。
「確信を持ったのは、あたしが告白した時のこと」
「えっ、そんなに前に?」
「名探偵明日香ちゃんと呼んでちょうだい」
「……」
「ごめん、今のは忘れて……」
恥ずかしかったらしく、明日香さんは赤くなった頬をぽりぽりとかきました。
「ともかく……あたしが告白した時、宗一は断らなかったじゃない? まあ、正確に言うと、あたしが断る間を与えなかったんだけど……でも、その後も、宗一はあたしに返事をしようとしなかった。結衣ちゃんと付き合っているから無理だ、って言おうとしなかった。それで、確信を得たのよ」
「何がいけなかったんですか?」
「宗一は、確かに朴念仁で、とことん鈍いダメダメなヤツだけど……でも、誠実なヤツよ」
「あ……」
「あたしが好きになった男は、彼女がいるのに、他の子からの告白を受けるなんてことはしない。待たせることも、保留にすることもしない。でも、宗一は、言われるままにあたしからの告白を保留にした。なぜか? 結衣ちゃんとは、まだ本当に付き合っていないから、そんなことができたのよ。そう考えたら、しっくりきたわ」
「さすがですね……名探偵明日香ちゃんの名前は伊達じゃないです」
「それやめて……」
「なら、兄さんへの愛ゆえに?」
「それも恥ずいわ……」
「そうですか……とっくにバレていましたか……」
「そゆこと。二人の関係は、まるっとお見通し……なんてね」
「……」
自然と視線が下を向きます。
明日香さんをずっと騙していました。
自分のことしか考えなくて……明日香さんの想いを踏みにじってきました。
申し訳なくて、まともに明日香さんの顔を見ることができません。
でも……
ここで、逃げるわけにはいかなくて。
どんな結果になろうと、謝らないといけないから。
「ごめんなさいっ! 私、今までウソをついてきて……今更、謝られても不快なだけかもしれませんけど……でも……他に、どうすることもできなくて……本当にごめんなさいっ!!!」
「ん? 別に気にしてないけど」
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