213話 妹を守るのは兄であり彼氏の役目
海の家で昼を食べて、それからまた海で遊んで……
楽しい時間を過ごしている時に、ちょっとしたトラブルが起きた。
「あれ? 結衣ちゃんは?」
一緒に泳いでいた明日香が、海から上がると、不思議そうに首を傾げた。
「さっきまで、そこで休んでいたわよね?」
「そういえば……」
泳ぎ疲れたということで、結衣は一足先に海から上がり、休んでいたはずだ。
それなのに、パラソルの下に結衣の姿はない。
「トイレか? それとも、何か買いに行ったのか……」
「宗一、ちょっと探してきなさい」
「なんで俺? っていうか、過保護すぎやしないか?」
「女の子は過保護なくらいでちょうどいいの。まったく、ぜんぜんわかってないんだから、この朴念仁は」
「そこまで言うか?」
「言うわよ。結衣ちゃんみたいな子が一人で歩いてたら、ナンパの格好の的になっちゃうでしょ」
「あっ」
「わかった? わかったなら、行ってきなさい。ゴーゴー!」
――――――――――
「……いたっ!」
結衣を探すこと、少し……
海の家の近くで、二人組の若い男に声をかけられているのを見つけた。
ホントにナンパされてるし……
明日香の言うとおりにしてよかった。
心の中で感謝しつつ、急いで結衣のところへ。
「結衣っ!」
「あっ、兄さん!」
俺の姿を見つけると、結衣はほっと安堵して、こちらに駆け寄ってきた。
「ん? この人、君のお兄さん?」
「は、はい……そうです。だから、その……」
「あー、なんだ……マジで連れがいたのか」
「まあ、いないわけがないか。悪いね、俺らもちょっとしつこかったかも」
質の悪い人ではなかったらしく、二人はすぐに退散した。
二人きりになり、結衣の顔を見る。
何度も告白されている経験があるとはいえ、年上の男を相手にした経験はほとんどない。
結衣は怯えるように身を縮こまらせて、震えていて……
「大丈夫だからな」
「あ……」
そんな結衣を見てることができなくて、少しでも安心させてやりたくて……
そっと、抱きしめた。
「ほら、俺がいるから。もう安心していいぞ」
「うぅ……」
「変なこと、されなかったか?」
「……平気です。でも、兄さん、遅いです……」
「悪い」
「ホントに遅いですよ……もうっ……」
「反省してる」
「……でも、ちゃんと来てくれましたね」
ぎゅうっと、結衣もこちらに抱きついてきた。
「年上の人に声をかけられるなんて、ほとんどないから、慌ててしまって……怖くなって……心の中で、兄さん兄さん、って何度も呼びました。そうしたら、ホントに兄さんが来てくれました……うれしいです♪」
「……ホント言うと、明日香に言われたからなんだけどな」
「そうなんですか?」
「結衣がナンパに遭うかもしれない、って言われて……それで、慌てて来た」
「……」
「悪い。自分で気づくべきことなのに……」
「いいですよ。兄さんに、そこまでは求めてませんから」
「……それはそれで傷つくな」
「それに……」
結衣が俺を見上げる。
そっと、こちらの頬に触れた。
「汗、たくさんかいてますね」
「暑いからな」
「こんなに汗をかいちゃうくらい、必死になって私のことを探してくれたんですよね?」
「……」
「やっぱり、私はうれしいです。兄さんに大事に想われているんだなあ、っていうことが伝わってきました。ドキドキします♪」
「……もうそんなことが言えるなら、心配なさそうだな」
「露骨に話を逸らしましたね……もしかして、照れてるんですか?」
「……そんなことない」
「照れてるんですね? ふふっ、兄さん、かわいいです♪」
結衣を助けたはずなのに、なんで俺が照れる展開になっているんだ?
なんでだろうなあ……
でも、不思議と悪くない気分だ。
どこか、心地いい。
それは、結衣と一緒にいるからなのか?
それとも……
「えっと……結衣?」
「なんですか?」
「そろそろ離れてくれないか? その……当たってる」
あれこれと考えていると、不意に、胸元に当たる柔らかい感触を思い出して、顔が赤くなった。
そんな俺につられるように、結衣も赤くなる。
でも、予想外に、怒ったりすることはなくて……
「……も、もう少し、このままでいてください」
「え?」
「兄さんは、私を慰めないといけないんですからね? だから、その……もうちょっと、このままで……」
「えっと……恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいですよ……」
「なら……」
「でも……今は、兄さんとこうしていたい気分なんです。兄さんに、ぎゅうってしてほしいんです♪ ダメですか?」
「……兄は妹の頼みを断れないものだ」
「ありがとうございます、兄さん♪」
うれしそうに微笑み、結衣がさらに強く抱きついてきた。
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