207話 妹と水着
「先輩は、実はロリコンなんですか? 目がいやらしいですよ?」
凛ちゃんが、いきなり不名誉な発言をぶつけてきた。
いやいや、違うからね?
俺はロリコンとかじゃないから。
元気な真白ちゃんを見て、微笑ましい気持ちになるっていうことは、誰にでもあると思うんだ。
……あるよな?
俺だけじゃないよな?
「というか……凛ちゃん、その水着は……」
「似合いますか?」
「似合うというか、なんというか……」
スクール水着だった。
胸元にひらがなで、『いちねん そうまりん』と書かれてる。
こんなことは失礼なんだけど……
凛ちゃんは小柄で胸もないから、恐ろしいくらいに似合っていた。
ドハマりだ。
凛ちゃんくらい、スクール水着がぴったりと来る高校生は他にいないんじゃないだろうか?
「先輩、その目は失礼なことを考えていますね?」
「……ソンナコトナイヨ」
「ふふっ……いったい、ナニを考えているのやら。後輩のスクール水着姿に劣情を催すなんて、いけない先輩ですね」
「いや、そういうわけじゃ……」
「やましい気持ちは一つもないと? 欠片もないと言い切れますか?」
「……言い切れる」
「その間はなんですか、その間は」
妙な背徳感を得ていたことは確かなので、ついつい言葉に詰まってしまった。
「まあ、私のことはいいんです。コレは、単なるネタなので。先輩をからかうことができたので、もう満足です」
「ネタなのかよ」
体を張りすぎてないか?
「私はこの辺にして……さあ、そろそろ本番ですよ」
本番っていうのは……残りの二人のことなんだろうな。
「兄さんっ」
「宗一っ」
結衣と明日香が同時に声をかけてきた。
振り向くと……
「おおぅ」
思わず、そんな声を出してしまうくらい、きらびやかな光景があった。
美少女が二人、水着姿で笑みを浮かべている。
結衣の水着は、淡いライムグリーンだ。
大胆なカットが入っているわけでもないのに、どこか艶っぽい。
花柄のパレオが良い具合に全体の調和を保ち、魅力を引き立てていた。
普段は、子供っぽいところが抜けない結衣だけど……
今は、水着のおかげなのか、『大人らしさ』がにじみ出ていた。
対する明日香は、大胆な赤のビキニだ。
自慢の体を見せつけるように、なかなか際どいタイプを選んでいた。
ただ、不思議といやらしさは感じない。
むしろ健康的で、スポーティーな印象さえ受ける。
明日香がきちんと水着を着こなしている、という証拠なんだろう。
それでいて、紐で結ばれた大胆なビキニは、見る者の視線を集めて離さない。
「どう? あたしの水着姿に興奮した?」
「……するわけないだろ」
本当は、すっごいドキドキしてるが……
それを口にしたら負けのような気がしたので、黙っておいた。
ただ、そんな俺の本心はお見通しらしく、明日香はニヤニヤと笑う。
「まったく、宗一は素直じゃないわね」
「うっさい」
「こういう時は、ちゃんと感想を言ってほしいものなの。宗一はそれができないの? そんな子に育てた覚えはないわよ」
「育てられた覚えもないっ」
「いいからいいから。ほら、正直な気持ちを、お姉さんに言ってごらんなさい?」
「誰がお姉さんだよ、ったく……」
明日香のペースに乗せられているとは思うものの、確かに、感想を言わないわけにはいかない。
「……似合ってるよ」
「それだけ?」
「すごくいい。正直、興奮した」
「あははっ、宗一のえっちー」
そんなことを言いながらも、明日香はうれしそうだった。
「兄さん……あの、その……私はどうですか? 似合ってますか?」
「えっと……」
結衣が期待に満ちた目を向けてくる。
そんな風に見られると、すごく言いにくいんだけど……
「まあ、うん……良い感じじゃないか?」
「本当ですか?」
結衣はぱあっと顔を明るくさせて、うれしそうに笑う。
大した感想を言ってないのに……そんなに、俺に褒められるのがうれしいのか?
……うれしいんだろうな。
照れくさいからといって、適当な言葉で済ませようとしたのが、申し訳なく思ってきた。
もう一度、思うがまま、素直に……
「……すごく良い感じだ」
「えへへ♪ ありがとうございます」
「正直、その……かわいい」
「ふぇっ」
「よく似合っていて、すごくかわいいよ。ホント、良い感じだ」
「に、兄さん?」
「なんか、うまい言葉が思い浮かばないけど……とにかく、かわいいぞ」
「ふぁ……」
結衣の顔が、太陽に負けじと赤くなる。
「そ、そんなに褒められたら、恥ずかしいですよ……」
「わ、悪い。でも、本心だからな?」
「あぅ……そ、そういうことが……もうっ、もうっ。兄さんのばかっ、かっこつけすぎです」
なんて、怒りながらも……
「……兄さんに褒められちゃいました、えへ♪」
うれしそうに笑うのだった。
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