205話 妹と朝を迎えて
旅行二日目。
「おはようございます、兄さん」
「あぁ……おはよ」
ラウンジで結衣と合流する。
「どうしたんですか? 眠そうですね?」
「ちょっとな」
これからのことについてあれこれ考えていたせいで、なかなか眠ることができなかった。
単純な寝不足だ。
結衣たちは、ぐっすり眠れたらしく、元気そうだった。
昨日、あれだけ騒いだから、寝付きも良かったのかもな。
「大丈夫ですか? 気分が悪いなら……」
「平気だって。ただの寝不足だから、問題ないさ。そのうち、目が覚める」
「そうですか。それならいいんですけど」
「やっほー、宗一!」
「ぐぇっ」
突然、駆け寄ってきた明日香に抱きつかれて、カエルが潰れるような声をこぼしてしまう。
「なにしてんだ、お前は」
「なになに? うれしい? あたしみたいな美少女に抱きつかれて、うれしい?」
「自分で言うな。あと、重い」
「うわ、ひっど。乙女に対して言うことじゃないでしょ」
「乙女は、やたらめったら人に抱きついたりしない。乙女に謝れ」
「サーセン」
誠意の欠片もこもってない謝罪だった。
「明日香さん、準備は終わりました?」
「あたしは終わったけど、みんなはもうちょっとかかるってさ」
「準備?」
二人の会話に口を挟むと、明日香が楽しげに笑う。
「気になる?」
「そりゃ、まあ」
「コレのことよ」
「おまっ!?」
突然、明日香がスカートを捲り上げた。
俺は慌てて目を逸らし……
「あはははっ、すっごい慌ててる! いやー、いいもん見せてもらったわ」
「……水着?」
残念というべきか、助かったというべきか。
明日香は下に水着をつけていた。
「みんな、コレの準備をしてるのよ」
「水着を下に……?」
「そ。海に行っても着替えるところはあるけど、混んでるじゃない? だから、少しでも楽をしようっていうことで、着込むことにしたの」
「なるほど」
「ねぇ……ドキドキした?」
「……ノーコメント」
凛ちゃんが小悪魔だとしたら、明日香は大悪魔だな。
こんなことをしてからかうなんて、タチが悪すぎる。
「ごめんごめん、拗ねないでってば」
「拗ねてなんかいない」
「その態度がすでに拗ねてるし。言っとくけど、こんなこと誰にでもやらないわよ? 水着を着てるとはいえ、スカートまくるのなんて恥ずかしいし……宗一だけよ?」
俺をからかっているものの、どこか艶があって……
思わずドキリとしてしまう。
「……兄さん」
あっ。
結衣のことを忘れてた。
ジーっと、睨みつけられる。
「とても楽しそうですね。私、邪魔でしょうか? あっち行った方がいいですか?」
「い、いや。そんなことは……」
「そんなことはあるんじゃないですか? 今まで話をしていた妹を放っておくくらい、明日香さんに夢中になったんでしょう? そういうことでしょう?」
嫉妬……なんだよな?
ちゃんと考えるようにしているからか、なんとなく、結衣の思考が読めるようになってきた。
えっと、こういう時は……
「よしよし」
「な、なんですかっ?」
とりあえず頭を撫でてみると、結衣があわあわ、という感じで慌てた。
「何をしているんですかっ、兄さんは!?」
「頭を撫でてる」
「見ればわかります! 私が言いたいのは、どうして頭を撫でるんですか、ということです!」
「そこに結衣の頭があるから」
「山があるから、みたいに言わないでください!」
「いや、悪い。特に意味はないんだけど、謝罪の意味を込めてっていうか、結衣のことをないがしろにしてたわけじゃないんだぞ、っていうことを伝えたくて。イヤなら止めるよ」
「……イヤじゃありません」
「そうなのか?」
「ほ、ホントはイヤですよ!?」
「どっちだよ」
「イヤですけど、イヤじゃないんです! 女の子は複雑なんです! それくらい察してくださいっ」
無茶な要求をする。
相変わらず、ウチの妹は複雑で難しい性格をしてるが……
少なくとも、拒絶されてるわけじゃなさそうだ。
よしよしと、そのまま結衣の頭を撫でる。
「ふぁ……兄さんの手が……えへ♪」
「気持ちいいか?」
「いいえ……気持ちよくなんてありませんよー……んにゃあ♪」
「なら、やめ……」
「やめてはいけませんよ……ほら、このまま……もっとです」
「わがままな妹だな」
「当然です。兄さんは、妹に尽くさないといけないんですよ」
よくわからない妹理論を持ち出された。
兄は妹に逆らえない、ってか。
「やれやれ、この兄妹は……」
逆に、今度は明日香の存在を忘れていた。
そんな明日香は、じゃれあう俺たちを見て、これ見よがしにため息をこぼしてみせた。
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