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203話 妹と二人、静かな夜で・1

 結局……

 結衣と明日香はほどなく潰れて、そのまま眠ってしまった。

 その時には、他のみんなも潰れていて、そのまま騒がしい夕食が終了した。


 後片付けは旅館の人にお願いして、布団を敷いて、みんなを寝かせる。

 それから、俺は部屋を後にした。


「ふぅ」


 色々あったせいで、すっかり目が覚めてしまった。

 すぐに寝る気にはなれなくて、ラウンジで休憩する。


 自販機で買ったお茶を一口。

 ほどよい苦味が心地良い。


「……」


 思い返すのは、結衣のこと。

 それと、明日香のこと。


 雰囲気に酔ったせいで、あんなことになったけど……

 あれは、二人の好意の現れなんだよな。

 つまり、俺が好きということ。


「……答えを出さないといけない、ってのはわかってるんだけどな」


 いつまでも引き伸ばせる問題じゃない。

 そろそろ、結論を出さないといけない。


 わかっている。

 わかってはいるんだけど……

 答えが見つからない。


 結衣は良い子だと思う。

 最近になって、『かわいい』って思うようになった。


 明日香は、俺にはもったいないくらいの幼馴染だ。

 ただの幼馴染じゃなくて、『女』を意識する時がある。


 ただ……


 そういうものを感じているからといって、『=恋』ってなるかどうか。

 それはまた、別の話なんだよな。


 俺の気持ちは、どこに……


「兄さん?」


 振り返ると、結衣の姿があった。


 元々、雰囲気に酔っただけだ。

 軽く寝たことで、すぐに元通りになったらしく、いつもの穏やかな表情を浮かべていた。


「こんなところで何をしているんですか?」

「んー……ちょっとくつろいでるところ。部屋で一人、っていうのは、なんか寂しいからさ」

「ふふっ、兄さんは寂しがり屋なんですね」

「そうだよ。知らなかったのか?」

「初めて知りました」


 結衣が隣の椅子に座る。


「仕方ないから、私も一緒にいてあげますね」

「助かるよ」


 軽口を叩く結衣に、俺は笑みで答える。


「そういえば……」

「なんですか?」

「えっと……さっきのこと、覚えているか?」

「さっき?」

「飯の時のことだけど……」

「あ……そのことで聞きたいことがあったんですけど。私、どうも記憶が曖昧で……ご飯を食べていると思ったら、いつの間にか寝てて……何があったんですか?」


 どうやら、結衣は酔っていた時のことを覚えてないらしい。

 良かった。

 あんなことを覚えられていたら、気まずいどころの話じゃないからな。

 結衣も、たぶん、恥ずかしくてまともに顔を合わせられないだろうし……

 忘れて良し、ということにしよう。


「特に何も。みんな、疲れが溜まっていたんだろうな。うとうとし始めたから、そこで切り上げて、俺が布団に寝かせたんだよ」

「そうなんですか? うーん。他に、何かあったような……やらかしたような、そんな気がするんですが……」

「……気のせいだろ」


 お願いだから、思い出さないで。

 俺も、思い出したくないから。


「あっ。兄さん、おいしそうなものを飲んでますね」

「ただのお茶だぞ?」

「でも、その銘柄、地元では売ってないのでは? 初めて見るお茶ですよ」

「言われてみれば」


 深く考えずに買ったから、気が付かなかった。


「少しくれませんか?」

「いいけど……」


 コップとかもらえないかな?

 なんて考えていたら……


「ありがとうございます。じゃあ……」


 コップを見つけるよりも先に、結衣がお茶を取り、コクコクと飲んでしまう。


「んっ……おいしいですね、これ。今までにない味わいがあります」

「……」

「どうしたんですか? 兄さん、変な顔してますよ」

「あー、いや……なんていうか……それ、俺が口をつけたヤツなんだけど」

「へ?」


 ぽかんとして……

 次いで、ボッ! と赤くなる。


「あわっ、あわわわ!?」

「お、落ち着け。俺は、その、気にしてないからな?」

「気にしてください!」

「えぇ!?」

「あっ、いえ、なんでもありません……というか、混乱してしまって……うぅ」


 恥じらう結衣は、純粋にかわいい。


 って……

 俺、また結衣のことを『かわいい』って。


「わ、わわわ、私も別に気にしてませんからね? か、かかか、間接キス……なんてぇ……気にしてません!」

「めっちゃ気にしてるじゃん」

「そ、そんなことありませんニョ!?」


 すごい動揺だ。


「うー……ついつい、やってしまいました……わ、わざとじゃないんですよ? ホントですよ?」

「わかってるよ」

「でも……なんだか、兄さんの味がしました。えへ♪」


 そう言って、はにかむ結衣は、やっぱり『かわいかった』。

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