193話 妹は兄と同じ部屋に泊まりたい
30分ほど休憩したところで、結衣が回復した。
改めてタクシーに乗り、凛ちゃんの叔父さんが経営する旅館へ移動する。
「みなさん。『かえで屋』へようこそ。ここが、私の叔父さんが経営するボロ旅館です」
「ボロって言うけどなあ……」
「全然ボロじゃないわよね」
「というか、すごく素敵です♪」
純和風の旅館だ。
歴史あるところなのか、建物には年季が入っている。
ただ、それが逆に良い味を出していた。
老舗旅館という言葉がよく似合う、雰囲気たっぷりの場所だ。
「さあ、中へどうぞ」
凛ちゃんの案内で旅館の中へ。
わざわざ待ってくれていた凛ちゃんの叔父さんに挨拶をして、そのまま部屋に。
「ここが女子部屋ですね」
「「おーーーっ!」」
みんなの声が見事に重なる。
思わず声を出してしまうくらい、良い部屋だ。
広くて、綺麗で、窓からの景色は抜群で……
非の打ち所がない。
「やっほーっ、畳だぁ♪」
真白ちゃんがうれしそうにしながらごろごろと転がる。
そんな風にはしゃいだら、スカートが……
「兄さん、どこをミテイルンデスカ?」
「いえ、何も」
「真白ちゃん、女の子がそんなことをしたらはしたないですよ」
「えへへー、ごめんなさい。ウチ、畳がないから新鮮で」
「珍しいな。私の家は、逆に全部畳だぞ?」
「小鳥遊さんの家は、それっぽい感じがするわよねー」
みんな、テンションが高い。
にこにこ笑顔で、とてもごきげんだ。
こんな良い部屋に泊まれるなんて知れば、そうなるのも当然か。
「ところで、俺の部屋は?」
「はい、こちらです」
叔父さんの手伝いをしているらしく、凛ちゃんが案内をしてくれる。
女子部屋を出て、少し歩いて……
「こちらが先輩の部屋になります」
「……ここが?」
掃除用具が雑然と押し込められた、人一人入るのがやっとという小さな小部屋。
いや、部屋というのもおかしいかもしれない。
物置に案内された。
「先輩はここで寝てください」
「いや、あの……」
「すみません。突然の来客で部屋が埋まってしまいまして、ここくらいしか空きがなくて……でも、大丈夫ですよね。掃除用具は先輩の友だちみたいなものですからね」
「違うからね!? なにその認識!?」
「モップは友だち!」
「キャプテンじゃないんだから! モップなんて友だちになれねえよっ!」
「では、雑巾の方が好みだと?」
「そういう問題でもないっ!」
「冗談ですよ。こんなところに先輩を泊めるわけないじゃないですか。私が本気でそんなことをすると思いました?」
「かなり思った」
「……やっぱり、先輩はここでいいですね」
「あ、ごめんなさい。謝るからちゃんとした部屋に案内してください」
「最初からそう言えばいいんです」
凛ちゃん、フリーダムすぎる。
なんだかんだで、みんなで旅行にテンションが上っているんだろうな。
「こちらです」
「おーっ」
改めて、俺の部屋に案内された。
案内といっても、女子部屋の隣だ。
「良い部屋だね」
二人用らしいので、女子部屋と比べるとさすがに狭い。
でも、一人で使う分には問題のない広さだ。
こちらも綺麗で、窓からの景色は最高。
和の雰囲気が漂う部屋で、どこか落ち着く。
「こちらは先輩一人なので、ナニをしても自由ですよ」
「なんか引っかかる言い方だけど……こんなところにタダで泊まれるなんて、ホントにいいのかな?」
「構いませんよ。結衣には伝えたと思いますが、叔父さんから言ってきたことなので。都合が悪いなら、そんなことは言わないでしょうし……二部屋だけですからね。まあ、平気でしょう」
「あまり根拠のない言葉だな……」
まあ、ここまできたら引き返すことはできないし……
せっかくの好意なのに、遠慮しすぎていたら失礼だろう。
素直に楽しむことにしよう。
「こっちが兄さんの部屋ですか?」
ひょこっと、結衣が顔を出した。
ダウンしてた姿はどこへやら、すっかり元気になっている。
「わぁ、こっちも良い部屋ですね」
「そうでしょう、そうでしょう」
「なんで凛ちゃんが得意げなんですか……?」
「私の叔父さんの旅館ということは、私の手柄でもあるわ。でしょう?」
「そ、そうでしょうか……? でも、一人で使うにはちょっと広いですね」
「二人部屋らしいからな」
「一人で寂しくないですか? 私たちの部屋に来ますか?」
「んなことできるか」
「なら……私がこっちに来てもいいですか?」
どこか艶っぽい視線を向けてくる結衣。
こんな顔もできたのか……と、ついつい驚いてしまう。
「バカなことを言うな」
「あいたっ」
こつん、と結衣の頭にチョップ。
「結衣に来られたら、ゆっくりと休むことができないだろ」
「私が騒音みたいな扱い!?」
「似たようなものだろ?」
「似てません! 私をなんだと思ってるんですか?」
「……妹?」
「今の間は!?」
「ふふっ」
凛ちゃんがくすりと笑う。
「二人はホントに仲が良いですね」
「……兄妹だからな」
そう応えるのに、少しだけ間を使ってしまった。
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