19話 妹は大ピンチです
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
たくさんの評価をいただき、ただただ感謝です。
<結衣視点>
無事に……と言っていいのかわかりませんが、デートが終わりました。
本当ならば、もっと長くデートをしたいところです。それこそ、夜遅くまで……そしてそして、私と兄さんはホテルに入り……きゃあきゃあ!
……とはいえ、さすがにそこまではできないといいますか、恥ずかしいといいますか……やっぱり、もうちょっと覚悟を決める時間が欲しいです。
ごめんなさい、兄さん。もう少しだけ待っていてくださいね?
えっと、話が逸れました。
とにかくもデートは終わり、その帰り道……
電車に乗り、地元に戻ります。
電車に揺られている間、兄さんの格好いい顔を見ます。
じーっと、飽きることなく、いつまでも見続けます。
兄さんは、どうしてそんなに格好いいんですか? 私の視線を独り占めして、どうするつもりですか?
兄さんはとても罪深いです。
「……ねえ、兄さん」
「ん? なんだ?」
「今日のデートは、どうでした?」
「そうだな……んー、楽しかったぞ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。すごい楽しかった。結衣が一緒だから、楽しさも10倍だな」
そんなうれしいことを言われたら、私、とろけてしまいますよ?
というか、すでにとろけているかもしれません。
デートの甘くて温かい余韻が残っているみたいで、身体がふわふわします。
兄さん♪ 兄さん♪
今日は、作戦ということで凛ちゃんも一緒でしたけど、今度は二人でデートをしましょうね?
兄さんと一緒なら、私はどこでもいいですよ? 映画館でも遊園地でもウインドウショッピングでも……公園で散歩だけ、なんてデートでも構いません。
兄さんがそこにいるだけで、私はとんでもなく幸せなんですから♪
「ふぅ」
「凛ちゃん、疲れましたか?」
「ええ、ちょっとね」
「途中で休憩した方がよかったでしょうか?」
「いえ、体力的な問題ではなくて精神的な問題よ。結衣たちのイチャイチャを、ずっと間近で見せられていたのだから……さすがに疲れたわ。途中から、からかう気も失せたし」
「からかっていたんですか……」
「ふふっ、ごめんなさい」
「いいですよ。気にしてませんから」
正直に言うと、ヤキモチを妬かされたこともありましたが……
でもまあ、凛ちゃんが一緒で楽しかったので、よしとします。
「……なあ」
兄さんが、そっと、私にだけ聞こえるように小声で話しかけてきました。
「凛ちゃんの様子を見る限り、今日の作戦は成功、って考えていいか?」
「そうですね、問題ないと思いますよ。私と兄さんの関係を、きっちりと見せつけることができたかと。もう疑われることはないでしょう」
「おお、そうか。がんばった甲斐があったな」
「その……おつかれさまです、兄さん」
頭をなでなでしましょうか?
それとも、膝枕をしましょうか?
それともそれとも、ぎゅうってしましょうか?
そんな言葉が出てしまいそうになるくらい、兄さんに甘えたくなってしまいます。
いえ、甘えてほしい、ですか?
うーん、どちらも魅力的で捨てがたいです。
よし、決めました!
今日は兄さんに甘えてもらいましょう。そして、明日は兄さんに甘えましょう。
恋人のフリの練習とか、そういう理由をつければ問題ありません。
突然のことに、兄さんは戸惑うかもしれませんが……
でもでも、仕方ないんです。
兄さんとデートできたことがうれしくてうれしくて、もう、踊りだしてしまいそうなくらいにうれしくて、とてもたまらないんです。胸がぽかぽかして、春なのに暑くなってしまうほどです。
この想いを、なにか別の形で発散しないと、私、どうにかなってしまいそうです。
兄さん成分過食症になってしまいそうです。
……そんな風に、あれこれと妄想を働かせている時でした。
「……え?」
さわりと、太ももを撫でられる感触が……
今のは?
怪訝に思っていると、もう一度、太ももを触られます。
「ひっ……!?」
ち、痴漢……!?
そんな、どうして……
い、イヤです。こんなの絶対にイヤです!
私は兄さんのものなんです! 足のつま先から頭のてっぺんまで、それから心も魂も、全部全部、兄さんのものなんです!
他人に触られるなんて……イヤっ、絶対にイヤです!
やだやだやだ……怖くて、声が出ません。
痴漢、って叫びたいのに体が固まってしまい……やだ……!
助けて……助けてください、兄さんっ!!!
「てめえっ、なにしてやがる!!!」
私の祈りが届いたように、兄さんの声が響きました。
――――――――――
<宗一視点>
「てめえっ、なにしてやがる!!!」
結衣の様子がおかしいことに気づいて、最初は酔ったのかと思っていたんだけど……
でも、怯えるように体を震わせて、涙目になっていて……
そして、痴漢されていることに気がついて……
その瞬間、理性が飛んだ。
痴漢をしていた男の腕を力任せに掴んで、捻り上げる。
「うあっ!? な、なにをするんだ、君は!?」
「俺の妹に痴漢しておいて、なにをするもないだろうがっ、このクソ野郎!!!」
頭に血が上り、おもいきり拳を……
「先輩、落ち着いてください」
そっと、俺の肩に凛ちゃんの手が添えられた。
静かな声と凛ちゃんに肩を叩かれて、少しだけど、荒れていた心が落ち着く。
「さすがに、殴るのはマズイです。怒る気持ちはわかりますが、我慢してください。この男は、次の駅で駅員に引き渡しましょう」
「……そうだな」
正直なところ、おもいきり殴ってやりたいところだが……
今は、結衣の方が心配だ。
冷静になると、一番大事なことを思い返すことができた。
「結衣、大丈夫か!?」
「……はいっ」
ぎゅうっと、結衣が抱きついてきた。
体は小刻みに震えている。その震えを止めるように、そっと頭を撫でた。
「怖かったよな? 悪い、気づくのが遅れて……」
「いえ……絶対に、兄さんが助けてくれると思っていましたから……だから、へっちゃらですよ」
そっと涙を指先で拭い、結衣は柔らかく微笑んだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、妹がピンチになる話でした。
とはいえ、こういうのは長々とやりたくなりので、すぐに助けられましたが。
次回もお付き合いいただけると幸いです。よろしくお願いします。