188話 妹と幼馴染と水着と・5
俺をからかうことに満足したらしく、明日香は、後は一人で選ぶ、と言い出した。
自分から選んでほしい、と言ったのに勝手だ。
まあ、明日香に振り回されるのは今に始まったことじゃないので、もう慣れた。
というか、今は、ある意味、俺が振り回しているからな……
これくらいのわがままなら気にしない。
「結衣はどうしてるかな?」
このまま店を後にして、外で待っていても良かったんだけど……
なんとなく、結衣のことが気になった。
本当になんとなくだ。
言葉にしろと言われても、きちんと表現できない。
「俺、結衣のことを気にしてるのかなあ?」
自分でも処理できない感情を抱えながら、結衣を探して店内を歩く。
ほどなくして結衣を見つけた。
「うーん」
両手に水着を手にして、悩ましげな顔をしていた。
片方はパレオ。
片方はフリルタイプのビキニ。
交互に見比べて、再びうーんと悩む。
「どっちがかわいいでしょうか……? やっぱり、フリル……? でもでも、パレオも捨てがたいです……こっちの方が、兄さんの好みのようが気がしますし……」
頼むから、そういうことは口にしないでほしい。
「結衣の好きな方でいいんじゃないか?」
「となると、フリルですかね? こっちの方がかわいいですし……って、に、兄さん!? いつからそこに!?」
「今さっきだよ」
「具体的に言うと?」
「どっちがかわいいかな、ってところ」
「よかった、そこですか……ほっ、聞かれなくてよかった。もしもアレを聞かれていたら、兄さんを殺して私も死ぬところでした」
「おい待て。何を口にしていたんだ!?」
「こんなところで、どうしたんですか?」
おもいきりごまかされた。
が、深く追求すると、藪蛇どころかもっと怖いものが出てきそうな気がしたので、これ以上はやめておいた。
「結衣はどうしてるかなー、って」
「……明日香さんはいいんですか?」
「後は一人で選びたい、ってさ」
「そうですか……」
「結衣は、その二択で迷ってるのか?」
「はい。どちらも捨てがたくて……」
「両方買ってみるとか」
「そんなお金ありません」
「ですよねー」
「兄さんが買ってくれる、という手もあるんですよ?」
「いいぞ」
「えっ、いいんですか!?」
「あっちのスクール水着ならな」
「……」
「まって。冗談だから。その氷のように冷たい視線はやめてください」
「兄さんがどうしてもというのなら……い、いいですよ? ただし、その場合は『兄さんに求められたから』と吹聴しますけどね。兄さんは、『スク―ル水着兄さん』の称号を得られますよ」
「とんでもなく不名誉な称号!?」
どうしようもない変態じゃないか。
俺は、露出が大きい方が好きだというのに。
「兄さんは、どっちが良いと思いますか?」
「うーん……フリルの方かな」
「ちょっと子供っぽいと思いません?」
「そうか? 女の子らしくて、かわいいと思うけど」
あと、肌色面積が多そう。
「じゃあ、こっちを試着してみますね」
「あいよ。じゃ、俺は一足先に出てるから」
その場を後にしようとしたら、がしっ、と結衣に腕を掴まれた。
「まだダメですよ?」
「ダメなのか……?」
「着ているところも見てください。その上で、もう一度、兄さんの意見が欲しいです」
「女の子のファッションセンスなんて、俺にはないぞ」
「そんなことわかってますよ」
わかっているんだ……
即座に肯定されて、ちょっと悲しい気分になった。
「女の子視点の良し悪しなんて、どうでもいいんです。兄さんの好みなのかそうでないのか、それだけを知りたいんです」
「また極端な」
「だって、その……兄さんのために見せる水着ですから」
不覚、というべきだろうか?
結衣の言葉が胸に響いて、ドキドキしてしまった。
明日香にドキドキしたばかりなのに、結衣にもドキドキして……
ホント、節操のない男だな、俺は。
でも、仕方ないだろう?
結衣や明日香みたいな女の子たちから好意を向けられて、うれしくない男なんていない。
それだけ、二人は魅力的なんだ。
「じゃあ、そこで待っていてくださいね」
「ああ」
「もしも、逃げたりしたら……ふふふ」
「笑みが怖いよ!?」
意味深な笑みを残して、結衣は試着室に入った。
そして、5分ほどが経過。
「着替えたか?」
「……いえ、まだです」
「悪い、急かすつもりはなかったんだ。ゆっくりでいいからな」
「その、なんていうか……まだ、まったく着替えてなくて……服も脱いでいません」
「え、なんで?」
「カーテンがあるとはいえ、兄さんの前で、ふ、服を脱ぐなんて……そう意識したら、恥ずかしくなってしまって……」
そんなことを言わないでほしい。俺も恥ずかしくなるから。
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