187話 妹と幼馴染と水着と・4
今まで避けていた質問をぶつけてみた。
どうして、明日香は俺を好きになったのか?
それを知ることは、明日香に返事をするために必要不可欠な要素だ。
明日香のことを今まで以上に深く知ることで、今後のことを考えられるから。
だから、なぜ好きになったのか、ということは知っておきたい。
「どうしてそんなことを?」
「……なんとなくだよ。ふと、気になったんだ」
ごまかした。
ウソをついた。
本当は……
そろそろ答えを出さないといけないと、そう思っているからだ。
明日香の告白に真剣に向き合うために、たくさん考えたい。
結衣のこともあるし……これ以上引き伸ばすことは、難しいからな。
「ふーん」
こちらの気持ちを知っているのか、知らないのか。
明日香は納得したようなそうでないような、曖昧な返事をした。
「知りたい?」
「ああ」
「そんなに知りたいの?」
「知りたい」
「どうか教えてください明日香さま、って言ってくれる?」
「調子に乗んなよ」
「こわーい。宗一がいじめる、えーん」
「かつてない棒読みだな。あと、えーんはないだろ、えーんは。それはないわ」
「うん、あたしもないなー、とは思った」
やりすぎ、という自覚はあったらしく、明日香が赤くなる。
恥ずかしがるくらいなら、調子の乗ってボケなければいいのに……
でも……こういうやりとりは、俺たちの間ではいつものことだ。
小さい頃からずっと続けてきた、繰り返してきたこと。
告白した、された後もいつも通りで……
それは、ある意味で、『俺たちらしい』気がした。
「宗一を好きになった理由か……何かしらね?」
小首を傾げて考える明日香。
「顔は普通。頭も普通。運動も普通。これといった特技もない……なくはないか。家事できるし、料理はおいしい。でも、女の子のアピールポイントなのよね、それって。他人の見せ場を奪うようなものだから、逆にマイナスポイントかも。となると、他に宗一の魅力はどこに……?」
「冷静な分析はやめて! あと、そういうことは本人に聞こえないように言ってくれないかな!?」
「顔は普通。頭も普通。運動も普通。これといった特技もない……」
「繰り返すなっ!!!」
「他に考えられる要因としては、幼馴染、ってとこかしら?」
「そうそう、そういうところを聞きたいんだよ」
「小さい頃から一緒だから、お互い、恥ずかしいところも黒歴史も全部知り尽くしているし……『コイツ、あたしの秘密を誰かに言いふらすんじゃね?』ってことで、常に近くで見張っておかないといけないでしょ? だから、一番近くにいるために告白したのかも」
「すごくイヤな理由だった!?」
「冗談よ」
「わかってるよ!」
「なんて、実は本気よ」
「マジで!?」
「冗談よ」
「ハッキリしてくれよ! もう、頭がこんがらがってきた!」
この幼馴染、俺をからかうことに全力すぎる。
もっと、こう……漫画のように、甘く優しいキャラになってほしい。
「真面目なことを言うと、理由なんてないわよ?」
「え? ないの?」
「ないわ」
きっぱりと断言する明日香。
えっと……つまり、どういうことだ?
明日香は理由もないのに、俺のことを好きに……?
そんなこと、ありえるのか?
悩む俺に、明日香はいつもの明るい笑顔を向ける。
「宗一は深く考えすぎよ」
「そんなことを言われてもな……」
「理由がないと、人を好きになったらいけないの? 理由があるから、人に告白するの?」
「それは……」
「こうこう、こういう理由があって好きになりました。っていうことを否定するつもりじゃないんだけどね。ただ、理由がなくても人を好きになってもいいんじゃない? あたしは、そういうタイプだし。恋って、いつの間にか落ちているものでしょ」
「まさか、明日香がそんなことを言うなんてな」
「あんたね……これでも、立派な乙女なのよ?」
「自分で言うか?」
「事実だし」
立派な乙女は、乙女であることを自分から言ったりしないと思うぞ。
「あとは、そうね……強いて理由をあげるなら、落ち着くから、ってところかしら」
「落ち着く?」
「宗一と一緒にいると落ち着くの。それに楽しいし、変に気を使う必要がないし、自然体でいられるし……ありのままのあたしでいられるの」
「ありのまま……」
「そんな宗一だから、もっと一緒にいたいと思うようになったのよ。宗一と一緒なら、きっと楽しいから……だから、恋人になりたいの。これが、あたしの答えよ」
「そっか」
「あたしの想いに応えてくれる気になった?」
「それは……まだわからない。すまん」
「いいわよ。そんな簡単に答えを出されても微妙だし、じっくり考えさせてあげる」
笑いながら言う明日香は、いつも以上に綺麗に見えて……
今まで以上に、ドキリとさせられた。
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