186話 妹と幼馴染と水着と・3
「んー、こんなところかしら?」
ほどなくして、試着室の中から、そんな声が聞こえてきた。
「終わったのか?」
「バッチリ」
「じゃ、俺は行くからな」
「こらこら、待ちなさい。あたしだけじゃなくて、宗一にも確認してもらわないと」
「それ、必要なのか?」
「男の目、っていうのは常に意識しないと。水着っていうのは、自分を着飾るためのものだけど、それ以上に、誰かに見せるためのものなのよ?」
「それは、まあ、なんとなくわかるが」
「好きな人に見てもらいたい、っていうのは普通のことでしょ」
ずるい。
そういう言い方は卑怯だ。
でも……
未だ、答えを保留にしてる俺も卑怯なのかもしれない。
「……どうしても見ないとダメなのか?」
「ダメ」
「面倒だな……」
「ホントは、ただ単に恥ずかしいんでしょ?」
「……違うし」
「宗一はかわいいわね。よしよし」
「子供扱いすんな!」
「ちゃんと見てくれないなら、こっちにも考えがあるわよ?」
「どうするつもりだ?」
「水着をほどいて、悲鳴を上げて、泣いてあげる」
「ちゃんと見て感想を言いますからそれだけは勘弁してください」
「よろしい」
こいつ、本当に俺のことが好きなのか?
普通、好きな男を性犯罪者に仕立て上げようとするか?
明日香のヤツ、いつかぎゃふんと言わせてやる。
「じゃ、御開帳~♪」
サーッと試着室のカーテンが開かれて、水着姿の明日香が現れた。
赤の三角ビキニだ。
布地面積は少なく、かなり露出が大きい。
でも、いやらしいという印象はなくて、女性らしい魅力が増している。
視線が吸い寄せられて、なかなか外すことができない。
「ぎゃふん」
明日香の水着の魅力に、こちらがぎゃふんと言わされていた。
「どう? 似合う?
「あー……うん。いいんじゃないか?」
「なによ、曖昧な答えね。もっとハッキリ言ってくれない?」
「ハッキリと言われてもな……」
ものすごく似合っている。
かわいいというか、綺麗だ。
そんな感想が思い浮かぶが、照れが邪魔して、なかなか口にすることができない。
明日香はただの幼馴染で、女友達のはずなのに……
どうして、こんなにドキドキしないといけないんだ?
俺って、水着で簡単に釣られてしまうような男だったのか?
「あー……」
「ほらほら、早く」
「なんていうか、その……」
「うんうん?」
「……似合ってる。すごくいい感じだ」
恥ずかしいとは思うが、こういう時に感想を口にしないほど、鈍感なヤツにはなりたくない。
なので、羞恥心はどこかに押し込んで、素直な言葉を届けた。
「……」
意外、という感じで明日香が目を大きくした。
「なんだよ、その反応は?」
「いやー……まさか、宗一が素直に褒めてくれるなんて、思ってもなかったからさ」
「俺だって、褒める時は褒める。それに……似合っているのは本当のことだからな」
「そっか……うん、そうなのね。ありがと、うれしい」
うれしそうに。
照れくさそうに。
明日香が笑う。
予想外の反応だ。
そんな風に頬を染めないでほしい。
調子が狂うじゃないか。
今まで見たことのない、幼馴染の新しい一面。
それのせいで、どうにもこうにも、ドキドキしてしまう。
ホント、俺ってちょろいヤツだな。
でも、仕方ないだろう? と言い訳してみる。
今まで、女の子からストレートに好意を向けられたことなんて、まるでなかったんだ。
免疫、耐性、共にゼロ。
そんな状態だから、こういう風に『女の子を意識させられる』と弱い。
簡単にドキドキしてしまう。
彼女いない歴=年齢の悲しい性だ。
「宗一が似合うって言ってくれたし、これにしようかしら?」
「おいおい、そんな簡単に決めていいのか?」
「見せる相手なんて、宗一しかいないもの。なら、宗一が喜んでくれるものにした方がいいでしょ?」
「お、おう。そっか」
「照れてる?」
「照れてない」
「そっかそっか。かわいいヤツめ、くふふ」
「人の話を聞け……いや、聞いてください」
「でもでも、ここで新しい水着をチョイスして、当日にびっくりさせる、っていう手もあるわよね。うーん、なかなか悩ましい」
そんなドッキリはいらん。
「……なあ、明日香?」
「ん? なに?」
「なんで、俺を好きになったんだ?」
ブクマや評価が、毎日更新を続けるモチベーションになります。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、
ブクマや評価をしていただけるとうれしいです。