183話 妹と幼馴染と
<結衣視点>
「というわけで、一緒に水着を選びに行きませんか?」
兄さんが賛成してくれたので、すぐに明日香さんに電話をしました。
「んー、水着?」
寝る前だったらしく、ちょっと眠そうな声です。
すみません。
でもでも、こういうことは早いうちに済ませておきたくて。
まずは、今度、海に行きませんか? という話をしました。
明日香さんは喜んで賛成してくれたので、そのまま話を続けます。
「それでですね……水着を一緒に選びに行きませんか? 兄さんも連れて」
「宗一も? 幼馴染と妹の水着をひと足早く見たいなんて……あいつ、ムッツリね」
「いえ、あの……私が誘っただけなんですが」
「っていう言い訳をしてくれ、って頼まれているのよね? かわいそうに……結衣ちゃん、あいつに脅されているのね」
「兄さん、無茶苦茶に言われてますね……」
「幼馴染だから、無茶苦茶に言っていいのよ。幼馴染の特権、っていうヤツね」
そんな特権、初めて聞きました。
「それで、どうでしょうか?」
「んー」
話しているうちに目が覚めてきたらしく、受け答えがハッキリしてきました。
ただ、返事は微妙な感じで、すぐにOKをくれません。
どうしたんでしょうか?
明日香さんなら、二つ返事でOKをもらえると思っていたんですが……
「それ、あたしも一緒していいの?」
「え? はい、もちろん。でなければ、声をかけませんよ」
「ホントに?」
「ホントですよ?」
なんで、こんなに確認するんでしょうか?
「どうしたんですか? なんで、そんなことを?」
「いやー……だって、邪魔になりそうな気が」
「……ひょっとして、気をつかってくれてるんですか?」
「そりゃ、ね」
「意外です」
「あのね……これでも一応、あたしだって空気読めるんだからね?」
「あっ、そういうつもりではなくて……ほら、兄さんを振り向かせてみせる、って言ってたじゃないですか? だから、こういうチャンスはしっかりと活かすような気がしていたので」
「あー」
気まずそうな声。
いたずらが見つかったような子供のような感じです。
明日香さんらしくない気がします。
いつもなら、もっとグイグイ来ているような……?
「そうなんだけどね。やっぱり、実際にそれを実行するとなると、色々と迷っちゃうの。もしもうまくいっても、結衣ちゃんから寝取るわけだし……それはそれでどうなのかなー、なんて思うわけよ」
「明日香さん……」
私のことを気にしてくれていたんですね……
うぅ……そこまで考えてくれていたなんて。
うれしいやら申し訳ないやら、すごい複雑な気分です。
でもでも。
そんなことを思っているのなら、なおさら、このままにしておけません!
ある意味、私はズルをしているわけで……
こんな状況で兄さんと結ばれたとしても、ぜんぜんうれしくありません。
ちゃんと、明日香さんと向き合いたいです。
私のわがままで、自己満足かもしれませんが……
そうすることが、正解のような気がするんです。
「大丈夫ですよ、そこまで気をつかわなくて。今回は、兄さんとデートするわけじゃないですし。普通に水着を買いに行くだけです」
「そう?」
「それに、私、あまりセンスがないので……できれば、明日香さんに助けてもらえたらうれしいです」
「んー……そういうことなら、あたしもお邪魔しよっかな?」
「だから、邪魔なんかじゃないですって」
「ん、了解。じゃあ、一緒に行きましょうか! とってもエロいの選んであげる♪」
「え、えっちなのはちょっと……」
「あははっ、本気よ」
「本気なんですか!? そこは、冗談って言うところでは!?」
お互いに笑い、そこから先はトントン拍子に話が進んで、約束をとりつけました。
明日の放課後。
私、兄さん、明日香さんの三人で水着を買いに行きます。
「じゃ、また明日ね」
「はい、明日です」
「結衣ちゃん」
「はい?」
「ありがとね」
通話を終えて……
私はなんともいえない気分になりました。
「……私、明日香さんを騙しているんですよね」
兄さんと付き合っている、というウソをついています。
明日香さんは、振り向かせてみせる、って言ってましたけど……
でも、実際のところは、私に気をつかってくれていて……
「……なんか、自己嫌悪です」
明日香さんと話したことで、また悩んでしまいました。
本当のことは話さない方がいいと思ってましたけど……
このままでいいんでしょうか?
明日香さんを騙し続けるなんて……
とはいえ、今、本当のことを話す意味は?
私の自己満足にすぎないような……?
ただ、私が気まずいから、心苦しいから、それから解き放たれたいために話したい、っていうだけでは……
「はぁ……あれこれと考えすぎて、頭痛が痛いです」
思わず日本語が崩壊してしまうくらい、思考回路が混乱してしまいます。
本当のことを話すべきか、話さないべきか。
私が取るべき道は……
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