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182話 妹は積極的にがんばります

<結衣視点>



 凛ちゃんとの通話を終えて、再びリビングに戻ります。


「あれ? 寝たんじゃないのか」


 私が凛ちゃんと話をしている間に、兄さんがお風呂から上がっていました。

 ほくほくと気持ちよさそうな顔をして、ソファーでくつろいでいます。


 惚れた人を相手になんですが……

 兄さん、おじさんみたいですね。

 牛乳でも飲みながら、ぷはー、とか言っていたらもう完璧におじさんです。


「ちょっと凛ちゃんを話をしてて……それで、ですね。兄さんは、海に行きたくありませんか?」

「唐突だな。それって、夏休みのこと?」

「そうです! 今、凛ちゃんから電話があって……」


 さきほどの話を繰り返しました。


「へぇー。いいな、それ」

「でしょう? ぜひ、みんなで遊びに行きましょう!」

「そう、だな」


 すぐに賛成してくれると思っていたんですが、兄さんは渋い顔をしました。

 どうしたんでしょうか?

 もしかして……すでに、なにかしら他の予定が?


「ダメですか?」

「いや、そんなことないけど……結衣はいいのか?」

「私ですか?」

「その、ほら……ああいうことがあったわけだろ? みんな一緒っていうよりは、二人だけの方がいいんじゃないかな、とか思ったわけで……」

「あ、ああ……そういうことですか」


 告白した私のことを気遣ってくれているみたいです。


 はぁ……


 こういう気遣いができるのならば、どうして、普段はあんなに鈍いんでしょうか。

 もっと鋭くなってもいいんですけどね……


「兄さんのばか」

「突然怒られた!?」

「気にしないでください。今のは、ついつい本音がこぼれただけです」

「それってダメだよな!?」

「とにかく、今回は、みんな一緒がいいんです! だから、兄さんは変に気をつかわないでください」

「お、おう」


 ぐぐっと迫るように言うと、兄さんはコクコクと頷きました。


 ……兄さん、意外と押しに弱いんでしょうか?

 付き合ってください!!! と、おもいきり迫れば、ひょっとしたら流れに任せて了承してくれるかも。


 って、そんなことで付き合うことになってもうれしくないです!

 それに、明日香さんの件が放置されたままですし。


「しかし、海かあ」

「うれしくないんですか? いつもの兄さんなら、奇声をあげて近所を走り回るくらい喜んでいるはずなのに」

「お前俺をどんな目で見てんだ!?」

「冗談です」

「結衣は、ホントに俺が好きなんだよな……?」

「はい、大好きです♪」

「……」

「……」


 しばしの沈黙。


「自分で言わせておいて照れないでくださいよぉっ!」

「結衣だって照れてるだろっ」

「仕方ないじゃないですか! 兄さんのことが好きなんですから!」

「うっ……」

「あ、いえ、その……今のは、ついつい、というやつで……えっと……気にしないでください」


 砂糖のように甘い空気が流れます。

 とても良い雰囲気ですが……


「えっと……そ、それで海のことなんだが」


 兄さんはごまかすように、平静を装い、そう言いました。


 まったく……

 このまま押し倒してくれても良かったのに。

 兄さん、意気地なしです。


「俺、水着持ってないんだよな」

「あれ、そうなんですか?」

「ウチの学校、プールがないだろ? だから、中学校の時に買ったやつしか持ってないんだよ」

「それでいいのでは?」

「いいわけあるか! サイズが合わねえよっ」

「意外です。兄さん、そういうこと気にするんですね……」

「当たり前だ! 俺は変態じゃないからな!?」

「え?」

「そういう反応やめてくれる!?」


 こんなやりとりも、とても楽しいです♪

 ずっとずっと、兄さんとこうして一緒に過ごしたいですね……


 でもでも、その前に、やるべきことをやらないと!


 ふと、良いことを思いつきました。


「水着がないなら、今度、一緒に買いに行きませんか? せっかくの海なので、私も新しい水着が欲しいので」

「ん? 別に構わないぞ」

「それで、なんですけど……明日香さんも一緒でいいですか?」

「明日香も? あいつも水着が欲しいのか?」

「いえ、まだ聞いてないからわかりませんけど……明日香さん、センスがあるので、水着を選んでほしくて」


 ……なんていうのは建前です。


 一緒に水着を選ぶ。

 仲良くなるチャンスです。

 明日香さんも、兄さんにアプローチすることができます。


「明日香も一緒でいいのか?」

「はい、もちろん」


 私一人で兄さんにアプローチしたい、私だけを見てほしい、私以外の女の子は関わってほしくない。

 そんなひどいことを思ってしまうことはあります。

 独占欲を捨てきることはできません。


 でも……


 明日香さんとフェアに競いたいという思いも、『本物』だと思うから。

 フェアプレイという行為に酔っているだけかもしれませんが……

 こうすることが正しいと信じて、私は前に進みます。

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