179話 妹と暗闇の中で……
結衣が風呂に入り、一人になる。
特にやることもないので、テレビを点けた。
芸人が漫才を披露して、会場が笑いに包まれている。
しかし、俺は笑えない。
というか、まるでテレビに集中できない。
「……告白されたんだよな」
ラブホでのことが自然と頭の中に蘇る。
結衣に告白された。
兄ではなくて、一人の男として見てると言われた。
衝撃的な事実だ。
たぶん、今まで生きてきた中で一番の驚きの出来事だ。
「ここ最近、色々ありすぎて混乱するな」
結衣に嫌われていると思ってたけど、実はそうじゃなくて……
嫌われているどころか、本当は好かれていて……
これは夢か?
自分に都合の良い夢を見ているんじゃないか?
ついついそんなことを疑ってしまうくらい、俺は現実に追いつけないでいた。
「どうしたもんかな」
しっかりしないといけない。
きっと、告白する時、すごく勇気が必要だったはずだ。
そんな結衣の気持ちに、ちゃんと向き合わないといけない。
ただ、結衣だけじゃなくて……
「うぉっ!?」
突然、なんの前触れもなく真っ暗になった。
電灯が消えて、テレビも消えた。
「え? なんだこれ……え?」
考え込んでいたところに、いきなり視界を奪われて、ちょっとしたパニックに陥る。
停電、だろうか?
手探りでテーブルの上に置いてあるテレビのリモコンを見つけて、ポチポチとスイッチを押すが、反応がない。
いきなり壊れるなんてこと、普通はないから、やっぱり停電だろう。
まいったな。
カーテンも閉めていたから、完全に真っ暗で何も見えない。
しばらくすれば目が慣れるんだろうけど、どれだけ見えるようになるか……
「って、そっか」
スマホを忘れてた。
スマホは停電関係なく使えるはずだ。
スマホをポケットから取り出すと、すぐに起動できた。
カメラのフラッシュを使い、懐中電灯代わりにする。
「これなら十分だな」
視界を確保したところで、今度はカーテンを開ける。
今日は晴れだ。
夜とはいえ、月明かりがあるため、多少は室内が明るくなった。
「……この辺り一帯、停電したのか?」
隣家や向かいの家、それと街灯も全部消えていた。
何かしら送電トラブルがあったのかもしれない。
これだけの規模となると、復旧まで時間がかかるかもな。
スマホのバッテリーも無限じゃないし、今のうちに懐中電灯を……
「って、結衣だ!」
慌てて浴室に向か……
「……入ってもいいのか?」
扉を開ける前に冷静になって、足を止める。
もしも着替えていたら?
いかん。
漫画のようなラッキースケベを起こすところだった。
ここは慎重に。
扉越しに声をかけるだけで……
「に、にぃさーん……?」
「結衣? 大丈夫か?」
「なんで、いきなり明かりが消えて……兄さんのいたずらですか?」
「なんで俺がそんなことするんだよ!?」
「兄さんなので」
「そのセリフやめような!?」
「私は信じています……兄さんは、妹にいたずらをするような人だ、って」
「そういう方向で信じるのはやめてくれないか!?」
「え?」
「違うんですか、みたいな反応もやめてくれ!」
とりあえず、結衣は元気そうだ。
停電に驚いてはいるが、何かあったわけじゃなさそうなので安心する。
「原因はわからないが、停電っぽい。隣も向かいさんも明かりが消えてた」
「停電ですか……兄さんの仕業じゃなかったんですね」
「いつまで俺を疑うつもりだ」
「兄さんなので」
そのセリフも、いつまで使うつもりなのかな……?
「結衣は大丈夫か?」
「はい。びっくりしましたけど、お風呂に入っている時だったので、特には」
「ならよかった。明かりになるようなものはあるか? 窓を開ければ、少しは明るくなると思うぞ」
「私、今裸なんですけど……? 開けられるわけないじゃないですか!」
「す、すまん」
「もうっ、兄さんはそういうところが問題ですよ。誰かに裸を見られたらどうするんですか? まあ、兄さんなら構わないですが……でもでも、そういうことはやっぱりまだ早いというか……って、恥ずかしいことを言わせないでください!?」
「俺のせいなのか!?」
「兄さんのせいです!」
理不尽な気がするが、妹さまには逆らえない。
俺が悪い。
反省しよう。
「えっと……なら、スマホは?」
「部屋です」
「取ってこようか?」
「妹の部屋に勝手に入るなんて、兄さん、えっちですよ」
「どうしろと……?」
「というか、兄さんの声、ちょっと聞こえづらいです」
まあ、間に脱衣所を挟んでいるからな。
「真っ暗なので、落ち着きません……もっと近くに来てもらえませんか?」
「俺も風呂に!?」
「そんなわけないじゃないですか! 兄さんのえっち! えっち! えっちすけっちわんたっち!」
「お前、何歳だ……?」
「入っていいのは脱衣所までです! それ以上は許しませんからねっ」
それも、ギリギリアウトな気がするが……
とはいえ、結衣を一人にするのも気が引ける。
迷いながらも、俺は扉を開けた。
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